2017年になって発表されたクラスターのライヴ・アルバムです。発表したのは精力的にクラウトロックのアルバム再発を進めるドイツのビューローBです。私も何度も通信販売でお世話になっています。紙ジャケではありませんが、いい感じのデジパック仕様になっています。

 もともとはクラスターの最初の10年間を網羅した9枚組CDボックスセットのうちの一枚として2016年に発表されたものですけれども、翌年になって単体で発売されました。9枚組はさすがに躊躇しますから、単体で発売されたのは大変喜ばしいことです。

 ここに収録されているのはクラスターが1972年と1977年に行ったライヴの模様です。録音は必ずしも良いわけではないのですけれども、どちらも公式音源であり、その意味では大変に貴重な記録であるといえます。よくぞ残っていたというところです。

 1972年のライヴはハンブルグのファブリックで行われました。クラスターは1971年から72年にかけて3回ファブリックにて公演を行っています。本作品に収録されているのは1972年のもので、その前年の公演は「幻星」に一部収録されていました。

 20分程度の録音です。一曲としては長めだと思われるかもしれませんが、この頃の彼らのライヴは平気で6時間も続いたといいますから、20分などほんのさわりでしかありません。それだけ長いと観客もかえって楽かもしれません。飲食もトイレも気を使わなくてすみます。

 ジャケット裏に写真があります。この頃は二人ともギターを抱えて電気の箱に向き合っています。もちろん立ったままです。シンセサイザーの類はまるでありません。電子楽器というよりも電気機器を積み上げています。つまみをまわしたりプラグを差したりして音をだしています。

 音のテロリズムと自ら評する通り、KからCに生まれ変わったばかりのクラスターは、アナログな電気信号を重ね合わせてノイズを発生させ続けています。この当時の電子サウンドは角がとれていてまろやかではあります。その分耳触りがよいのが特徴でしょう。

 一方、1977年のライヴはフランスのメッスで行われたものです。クラスターはこの地で1977年9月に行われた第二回メッス国際サイエンス・フィクション祭に呼ばれてステージに立ちました。SFとクラスターとは大変相性が良さそうに感じます。

 この頃のクラスターはブライアン・イーノとのコラボレーションを行っていた時期です。次第にメロディーやリズムを学んできたと本人たちも話しており、いわゆる普通の音楽のフォーマットに近づいていた時期ともいえます。落ち着いた作品群を生み出していました。

 しかし、そうしたサウンドを思い浮かべると調子が狂います。確かに1972年のライヴに比べれば落ち着いてはいるのですが、ダークなドローンが基調となるサウンドは牧歌的なクラスターとは異なります。ピアノが登場してもそこは変わりません。

 当時の演奏風景はジャケットにある通りです。椅子に腰かけて落ち着いた二人はデビュー当時から変わらない電子音の探求者然として、圧倒的な音空間を作っていきます。この時は何時間続いたのでしょうか。ダーク・アンビエントの先駆として評価されるべき作品です。

Konzerte 1972/1977 / Cluster (2017 Bureau B)



Tracks:
01. Fabrik, Hamburg 1972
02. Festival International De La Science-Fiction, Metz 1977

Personnel:
Hans-Joachim Roedelius
Dieter Moebius