ポピュラー音楽のアーティストは、特にビートルズ以降、アルバムを作品として制作することが一つのゴールとなっています。アルバムのために曲を作るなどということが当たり前になっていますけれども、考えてみればそうでなければならないわけなど少しもありません。

 メレディス・モンクのECMでの第三作目「ドゥー・ユー・ビー」はモンクによるオペラないし劇場作品のために作曲された曲を収録した作品です。曲のゴールはオペラ上演なわけで、アルバムが主役ではありません。クラシック畑では当たり前ですが、なぜか新鮮な気がします。

 モンクによれば、プロデューサーのマンフレッド・アイヒャーは本作品をよりモンク個人に焦点をあてたものにしたいと考えていたそうです。一方、モンクは大人数での作品である1983年のSFオペラ「ザ・ゲーム」を全曲収録したいと希望していました。

 本作品は結果的に折衷案となっています。LPでいえばA面には、モンクとピアニスト、ヌリット・ティレスとのデュオ作品である1986年の「アクツ・フロム・アンダー・アンド・アバヴ」からの曲が収録され、B面には「ザ・ゲーム」からの楽曲が収録されました。

 「アクツ・フロム・アンダー・アンド・アバヴ」の中では冒頭の「スケアード・ソング」が光ります。モンクによれば、それと分かる人間の感情に触発されてできた最初の曲です。怒りや暴力、不安、貪欲といった感情の背後に恐れがあるとの洞察です。

 モンクの信念は、声はこうした定義しがたい様相を表現できるというものです。言葉による歌詞はあるのですが、何よりも声が主役です。多彩な声の表現を目の当たりにするとモンクの信念に圧倒されます。音楽は言葉以前に存在したのです。

 「ザ・ゲーム」は地球が滅亡し、他の惑星にわたった人類が地球の文化を思い出すという筋書きのSFオペラです。こちらは10人近いアーティストによるボイス・アンサンブルが聴かれます。前二作よりも人数が多く、CDよりもさらに大人数でのパフォーマンスもありました。

 一方で、タイトルともなった「ドゥー・ユー・ビー」は1971年の「ヴェッスル」という別のオペラ作品からの曲です。アイヒャーはモンクがこの曲をオルガンとのデュオでパフォーマンスするのを聴いてほれ込み、本作品への収録を強く推奨したのだそうです。

 モンクはこの曲は自分が作ったのではなく、自分を通して出てきたのだと 感じていたといいます。自分を超える大きな知性が自分を歌わせている、そんな曲だということです。天啓というのでしょうか。モンクにとっても特別な曲で、ここではピアノとともに歌います。

 本作品にはモンクの音楽パートナーであったコリン・ウォルコットの名前がありません。ウォルコットは1984年11月に事故で他界してしまいました。モンクは本作品のレコーディングはウォルコットなしの初めての録音で、彼の魂がセッションに満ち満ちていたといいます。

 とりわけ、1987年1月の最終録音で、「ドゥー・ユー・ビー」を歌った時にはウォルコットの存在を強く感じたそうです。それはアイヒャーも同じです。そこで、本作品のタイトルが「ドゥー・ユー・ビー」に決しました。そんなエモーショナルな一面も持ち合わせた見事な作品です。

Do You Be / Meredith Monk (1987 ECM)



Tracks:
01. Scared Song
02. I Don't Know
03. Window In 7's
04. Double Fiesta
05. Do You be
06. Panda Chant I
07. Memory Song
08. Panda Chant II
09. Quarry Lullaby
10. Shadow Song
11. Astronaut Anthem
12. Wheel

Personnel:
Meredith Monk : voice, synthesizer, piano
***
Johanna Arnold : voice
John Eppler : voice
Ching Gonzalez : voice
Andrea Goodman : voice
Wayne Hankin : voice, Casio, bagpipes
Naaz Hosseini : voice, violin
Edmund Niemann : piano
Nicky Paraiso : voice
Nurit Tilles : piano, synthesizer, Casio, voice