フューが1992年に発表した3作目のアルバム、「アワ・ライクネス」が再発されました。長い間入手困難だっただけに大変喜ばしいことです。CDのみならずLPでも発売されましたし、何よりも配信でも手に入ることができます。これまた大変嬉しいことです。

 フューのソロ第一作目はドイツにわたってコニー・プランクのスタジオで制作されました。1981年のことです。カンのホルガー・シューカイとヤキ・リーベツァイトが演奏を担当しており、幻のカン・アルバムとしても知られている名作です。

 この時、プランクのスタジオに居合わせていたのが、DAFのメンバーとしても知られるクリスロー・ハースでした。この時はお互いに顔見知りになったわけではないそうですが、十年後に当時のハースのパートナーだった日本人女性のはからいで二人は東京で再会します。

 そこから本作品の計画が生まれると、ハースの八面六臂の大活躍で本作品の制作へと一気に突き進んでいきました。演奏陣の手配から現場の仕切りまで何なら何までハースが面倒をみるという徹底ぶりです。フューとの出会いが嬉しくてたまらない様子がいいです。

 そんな出自ですから、本作品はファースト・アルバムと対をなす作品であるといえます。録音場所はケルンにあるコニー・プランクのスタジオです。プランクはすでに他界していましたが、彼の妻クリスタ・ファストと息子さんが後をついで存続していました。

 演奏陣もドイツづくしです。ドラムにはファースト同様にカンのヤキ・リーベツァイトが起用されているものの、残りの三人はドイツのニュー・ウェイブであるノイエ・ドイッチェ・ヴェレのアーティストです。筆頭はもちろんハース、キーボードを担当しています。

 ギターを担当するのはアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのアレクサンダー・ハッケ、ベースはハース、ハッケとともにクライム&ザ・シティ・ソリューションに参加していたトーマス・スターンです。このバンドはバースデイ・パーティーのメンバーが在籍したことで知られます。

 こうした布陣による演奏ですから、ファーストのような幽玄な響きのクラウトロック・サウンドではなく、よりタイトで華やかなニュー・ウェイブ・サウンドが飛び出してきます。今回は演奏者とフューが同世代ですから、両者の関係性もまるで異なり、同じ地平に立っています。

 各楽曲の振れ幅はかなり大きく、先鋭的なサウンドが描き出す曲の姿はさまざまです。それに応じて、フューの歌唱の振れ幅も大きく、珍しくシャウトする楽曲もあれば、耳元で囁くようなボーカルもあり、まだ若いフューのボイス・パフォーマンスが堪能できます。

 フューは時にパンク版メレディス・モンクとも称されます。モンクの曲は声楽のトレーニングを受けていないと歌えませんが、フューの曲は逆にそうしたトレーニングを受けていたら決して歌えないでしょう。歌詞のみならず歌メロも日本語そのものです。

 日本語話者ではない人にはフューの歌はどう聴こえるのでしょうか。日本語話者であることが残念です。この生々しい歌唱が背筋を這い上る感覚は日本語であることで倍増されているのか、それとも緩和されているのか。フューの歌はここでも生々しくて恐ろしいです。

Our Likeness / Phew (1992 Mute)



Tracks:
01. さいごのうた
02. アワ・ライクネス
03. あるもの・あったもの
04. 水と水のように
05. 夜の光
06. 春
07. におい
08. 額の奥
09. アワ・エレメント
10. エクスプレッション
11. 海のように

Personnel:
Phew : vocal
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Jaki Liebezeit : drums, percussion, piano
Alexander Hacke : guitar, piano
Chrislo Haas : keyboards, piano, altosax
Thomas Stern : bass