メレディス・モンクのECM第二弾は「タートル・ドリーム」と題されました。タイトル曲はもともとニューヨークの劇場で披露されています。このフィルム版も存在し、そちらはモンク劇団にいたビジュアル・アーティスト、張家平が監督しています。

 「タートル・ドリーム」は文字通り「亀の夢」です。何でもモンクは亀をペットとして飼っていたことがあるらしく、その際に亀の夢を何度も見たことから、逆に亀はどんな夢をみるのだろうかと考えたことが本作品のインスピレーションになった模様です。

 それをサウンドで表現するとすると確かに声を使うのが正しい気もします。ただし亀には声帯はありません。とはいえ俳句には「亀鳴く」なんていう季語もありますし、最近の研究では亀も鳴くそうです。モンクのボイスも亀と通じるものがあるのかもしれません。

 「タートル・ドリーム」では4人のボーカリストがパフォーマンスをします。前作「ドルメン・ミュージック」は椅子に座ったままでしたけれども、この作品では四人がステージに並んで身体を動かしながらパフォーマンスしています。演奏はシンプルなオルガンのみです。

 無表情な四人がステージに並んで、身体を動かしながらボイス・パフォーマンスをしていくのですが、これがとても中毒性が高いです。亀が動いたりするシーンもあって全編ダンスというわけではない映像版でも思わず見入ってしまいますから、ステージは推して知るべしです。

 声のパフォーマンスは鋭いのですが、全体の印象は脱力気味で、私はふかわりょうのコントを思い出してしまいました。シンプルなリズムを繰り返すオルガンの音も耳について離れませんし、そこにゆるい身体の動きが重なると不思議な気持ちになります。

 モンクは「タートル・ドリーム」をマンハッタンのフォーク・ミュージックだと言い表しています。モンクの声の表現は文化横断的であり、かつ都会的でもあるということを示しているようです。若干分かりにくいのですが、フォーク・ミュージックという言葉はしっくりきます。

 本作品ではニューヨークで録音された「タートル・ドリーム」が半分近くを占めています。続く曲は同じくニューヨーク録音の「ヴュー1」で、この曲は張家平のフィルムのために作られています。これ以降の楽曲はモンクのソロ・パフォーマンスとなっていきます。

 三曲目はニューヨークのミュージアムで録音された「エンジン・ステップ」でエンジン音を模したインダストリアルな短い曲で、何とインストゥルメンタルです。続く「エスターズ・ソング」は張家平の初めての長尺の劇場作品のための曲なのですが、これもわずか1分ちょっとです。

 最後の「ヴュー2」は再び「タートル・ドリーム」用の曲ですけれども、録音場所はドイツにあるECMのスタジオです。そのせいかあまり動きを感じない曲に仕上がっています。冒頭の「タートル・ドリーム」本体の興奮を覚ますにはちょうどよい配置でしょう。

 声の原初の姿に立ち返ったパフォーマンスはダイレクトに身体に染みてきます。そこに自然な身体の動きを誘うリズムを配していることが奏効しており、とにかく中毒性が高いです。ここのところこの作品が頭から離れません。不思議な気持ちにさせる音楽です。

Turtle Dreams / Meredith Monk (1983 ECM)



Tracks:
01. Turtle Dreams (Waltz)
02. View 1
03. Engine Steps
04. Ester's Song
05. View 2

Personnel:
Meredith Monk : voice, piano, organ, Mini-Moog, Casio
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Robert Een : voice
Andrea Goodman : voice
Paul Langland : voice
Julius Eastman : organ
Steve Lockwood : organ
Collin Walcott : organ, didgeridoo