「アメリカン・ビューティー」はグレイトフル・デッドの6作目のアルバムです。タイトルはケビン・スペーシー主演の映画と同じで、1900年前後にアメリカで最も人気のあった薔薇の品種のことだそうです。ジャケットにはその薔薇が描かれていて素敵です。

 本作品は前作から半年もたたないうちに発表されました。しかもライヴではなく、スタジオですから、ライヴを身上とするデッドにしては異例の間隔でのアルバム制作です。どうやら、曲がどんどん出来てきていた時期にたまたま時間が空いたから、という事情のようです。

 曲作りに関してはバンドの詩人ロバート・ハンターがフル稼働したことが大きいです。ここではバンド・メンバーとしてクレジットされています。歌詞を担当する人がメンバーの一員となっているバンドとしては、キング・クリムゾンやプロコル・ハルムなどが思い浮かびます。

 この頃のハンターの創作意欲はとりわけ旺盛でどんどん曲が出来てきたそうです。作曲はいつものジェリー・ガルシアに加えて、本作では初めてフィル・レッシュとボブ・ウィアがそれぞれ単独でクレジットされました。体調のすぐれなかったピッグペンも一曲貢献しています。

 さて、時間が空いた事情は他のバンドとのツアーへの参加を取りやめたからということでした。しかし、ツアーにはいつものサウンド・クルーが行ってしまいましたから、本作品はエンジニアのスティーヴ・バーンカードを中心にあまり馴染みのない連中と一緒に制作されました。

 そのためか、本作品は前作同様にカントリー風味あふれるアコースティックなサウンドが聴かれますけれども、各楽器のソロも控えめになっており、ハーモニーとアンサンブルを中心にかっちりとまとまった楽曲が並んでいます。仲良し感が少し薄れてかっちりしています。

 デッドといえばガルシアのギター・ソロが中心だと観念されていますが、本作品ではペダル・スティールのソロはあるものの通常のギター・ソロはありません。冒頭の「ボックス・オブ・レイン」のソロはニュー・ライダース・オブ・パープル・セイジのデヴィッド・二ルソンですし。

 この曲はレッシュの数少ないボーカル曲であり、彼の代表曲です。父親ががんで死の床にある状況をハンターが歌詞にした重厚な曲で、私はこの曲が大好きで大好きで、本作品のベスト・トラックだと思います。ずるずると流れ流れていくところがたまりません。

 一般にはボブ・ウィアによる「シュガー・マグノリア」の人気も高く、こちらも出だしからしてかっこいい名曲です。ピッグペンが歌詞も担当した「オペレーター」もどすが効いていて素敵ですし、シングル・カットした「トラッキン」の疾走感もいい。全曲かっこいいです。

 なお、本作品にはマンドリンでデビッド・グリスマンが参加しています。デッドとジェファーソン・エアプレインが野球の試合をした時に、旧友のガルシアと再会して、そのままレコーディングに参加したのだそうです。野球の試合というところがほのぼのしていてデッドらしいです。

 アルバムは米国ではトップ20に入るヒットとなり、ダブル・プラチナムを獲得しています。デッドのアルバムの中では最も人気のあるアルバムの一つです。デッドのアルバムの中ではギター・ソロが少ない異色のアルバムですけれども、こういうデッドも魅力的です。

American Beauty / Grateful Dead (1970 Warner Bros.)

*2011年11月12日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Box Of Rain
02. Friend Of The Devil
03. Sugar Magnolia
04. Operator
05. Candyman
06. Ripple
07. Brokedown Palace
08. Till The Morning Comes
09. Attics Of My Life
10. Truckin'
(bonus)
11. Truckin' (single version)
12. Friend Of The Devil (live)
13. Candyman (live)
14. Till The Morning Comes (live)
15. Attics Of My Life (live)
16. Truckin' (live)

Personnel:
Jerry Garcia : guitar, pedal steel, piano, vocal
Phil Lesh : bass, guitar, piano, vocal
Bob Weir : guitar, vocal
Pigpen (Ron McKernan) : harmonica, vocal
Mickey Hart : percussion
Bill Kreutzmann : drums
Robert Hunter : songwriter
***
Dave Torbert : bass
David Nelson : guitar
David Grisman : mandolin
Howard Wales : organ, piano
Ned Lagin : piano
New Riders Of The Purple Sage