しばしばグレイトフル・デッドの最高傑作と言われるだけではなく、ロックのライヴ・アルバムの最高峰と称されることもある傑作アルバムです。16トラックで録音されたライヴ・アルバムとしてはロック史上最も早い部類に入ります。確かに音がいいです。

 前作まででスタジオ代がかさみ、デッドはワーナー・ブラザーズに多額の借金を抱えていましたが、同時期にこのアルバムを制作したことで何とか救われました。チャート的には前作よりもよいとはいえ、64位どまりですけれども、後にゴールド・ディスクに輝いています。

 パティ・スミス・グループのレニー・ケイは「フリー・アット・ラスト!」とこのアルバムを評しています。これまでスタジオで実験を繰り返してきたデッドが初めて発表したライヴ・アルバムで、とうとう彼らの実力が円盤に記録されたわけです。ようやく気付いたといったところでしょう。

 この作品は1969年1月から3月にかけて、3回のライヴから編集されています。そのうちの二回はフィルモア・ウェストです。後にデッドはライヴごとに曲目を変えることになりますが、この頃はほぼ同じセットでした。そのセット・リストを再現する並びとなっています。

 アルバムは23分に及ぶ大作「ダーク・スター」で始まります。この曲はロバート・ハンターがデッドのために初めて詞を書いたことでも知られており、最初は「太陽賛歌」の頃にシングル曲としてリリースされました。シングルとは驚きです。

 「ダークスター」はデッドの即興演奏のプラットフォームとなり、即興の応酬でどんどん長尺になっていきます。デッドのライヴの目玉の一つとなり、1960年代から70年代の前半にかけてほぼ毎回演奏されています。熟成に熟成を重ねて名曲となっていきました。

 このアルバムの「ダークスター」でもバンドの創造性が遺憾なく発揮されており、メンバーが一体となって、これがデッドや!と言わんばかりの演奏が繰り広げられています。ジェリー・ガルシアのギター・ソロもすでに伝説となり、アルバムの魅力を決定づけています。

 デッドはこの年、実は三つのバンドであったと解説の中でデッド研究家のデニス・マクナニーが書いています。それは、ベスト・サイケデリック・バンド、偉大なR&Bバンド、そして前進を続けるロック・バンドの三つで、デッドのさまざまな顔を表しています。
  
 スタジオ盤では実験的な曲作りを前面に押し出しますが、このライヴではもちろんサイケデリックで独特のグルーヴ感漂うR&Bバンドとしての顔が光っています。トム・コンスタンティンのオルガンなどはとりわけサイケデリックの匂いが濃いです。

 ただし、後の円熟したデッドと異なり、まだまだ鋭角にとがっているライヴ・サウンドです。その意味ではさすがに「アオクソモクソア」と同時期のアルバムだなと思います。ゆるめのサウンドを期待すると若々しい緊張感に面くらいます。

 しかし、さすがはデッドの至高のライヴです。「セント・スティーヴン」から「ジ・イレヴン」の流れも素晴らしいですから1枚目などあっという間です。2枚目に移っても快調な演奏はとまらず、まったくデッドにとってLP2枚組なんて短すぎるなあと思ってしまいます。

Live/Dead / Grateful Dead (1969 Warner Bros.)

*2011年11月5日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Dark Star
02. St. Stephen
03. The Eleven
04. Turn On Your Love Light
05. Death Don't Have No Mercy
06. Feedbck
07. And We Bid You Goodnight

Personnel:
Jerry Garcia : guitar, vocal
Phil Lesh : bass, vocal
Bob Weir : guitar, vocal
Mickey Hart : percussion
Bill Kreutzmann : percussion
Tom Constanten : keyboards
Pigpen (Ron McKernan) : vocal, congas, organ