「ガン・ホー」とは不思議な言葉です。中国語の「工業合作社」の略称である「工合」が語源で、「力を合わせて一緒に頑張ろう」というスローガンとして第二次世界大戦中に米国海兵隊が用いた言葉なんだそうです。中国では一切通じないでしょうね。

 パティ・スミスの3年ぶりのアルバムは「ガン・ホー」と名付けられました。このタイトルにそんな意味があるとは露知らず、銃に関係するのだろうなどと勝手に思い込んでいました。ジャケットは西部開拓時代の米国を思わせますし、私だけではないと信じたいところです。

 そのジャケット写真です。パティ・スミスのアルバムとしては初めて本人が登場していません。しかし、代わりに登場しているのはグラント・スミス、パティのお父さんでした。1942年にオーストラリアで撮影された写真だそうです。色合いといい何とも渋いです。

 また、ジャケットの右半分にはうっすらとベトナムの国旗が写っています。スミスは本作品の制作に先立ってベトナムを訪問しています。ベトナムと米国が歴史的な和解を果たしたのは1995年のことですから、それほど昔のことではありませんでした。

 スミスはタイトル曲「ガン・ホー」において、ベトナム建国の英雄ホー・チ・ミンを歌っています。11分を超えるポエトリー・リーディング・スタイルの重い楽曲です。米国からホー・チ・ミンのことを歌うことにはさまざまな思いが交錯したことでしょう。

 トリビュートといえば「グレイトフル」もそうです。こちらはグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアが逝去したその日に書き上げられたそうです。これもまた1995年の出来事です。スミスとガルシアの取り合わせは少し意外な気もしますが、通じるものがあったのでしょう。

 本作品はプロデュースをギル・ノートンが担当しています。ノートンはかの名作ピクシーズの「ドリトル」を手がけたことで一躍有名になった人です。フー・ファイターズやカウンティング・クロウズなどオルタナ・ロックに強いノートンですからスミスと相性はばっちりです。

 バンドは前作と同じです。曲作りも濃淡はあるもののバンド・メンバー全員が担っています。本作品にはカバー曲もなく、メンバー以外の曲は亡くなった夫フレッド・スミスの曲が一曲あるだけです。キャリアを重ねてバンドの結束はこれまで以上に高まっています。

 アルバムからのシングル・カットは「グリッター・イン・ゼア・アイズ」でした。この曲にはゲストとして、コーラスでREMのマイケル・スタイプ、ギターにトム・ヴァーレインが参加するというスミス得意の豪華な仕掛けです。アップテンポのキャッチーなロック・チューンです。

 そしてこの曲がまたまたグラミーのベスト・女性・ロック・ボーカル・パフォーマンス賞にノミネートされました。パティ・スミスが大ヒットしたわけでもないにもかかわらず、グラミーの常連になることには複雑な気持ちがあります。やはりグラミーは体制側ですからね。

 とはいえ、本作品でのスミスはこれまた堂々たるクラシックなスタイルなロックを展開しています。けれんみのない、それでいてポップには流れない正面からのロック。私などの年代にはすとんと腑に落ちる力作です。心地よさを感じてしまうところに少しもやもやを感じます。

Gung Ho / Patti Smith (2000 Arista)



Tracks:
01. One Voice
02. Lo And Beholden
03. Boy Cried Wolf
04. Persuasion
05. Gone Pie
06. China Bird
07. Glitter In Their Eyes
08. Strange Messengers
09. Grateful
10. Upright Come
11. New Party
12. Liggie's Song
13. Gung Ho

Personnel:
Patti Smith : vocal, guitar
***
J.D. Daugherty : drums
Lenny Kaye : guitar
Oliver Ray : guitar
Tony Shanahan : bass, keyboards

Michael Stipe, Wade Raley : chorus
Grant Hart : piano, organ
Jackson Smith, Tom Verlaine : guitar
Ben E. Franklin : penny whistle
Rebecca Weiner Tompkins : violin
Kimberly Smith : mandolin
Skaila Kanga : harp