「ドルメン・ミュージック」はメレディス・モンクが世の中に広く知られるきっかけとなったアルバムです。現代音楽畑の人なので、こういう言い方は居心地が悪いですが、メジャー・デビュー作に相当する作品です。発表はECMからです。

 モンクはこれもまた居心地が悪い言い方ですが、声楽の人です。なぜ居心地が悪いかといえば、声楽と言えばオペラを思い浮かべてしまうからです。モンクの場合はより自由に声を使いますからむしろボイス・パフォーマンスと言った方がしっくりきます。

 モンクは1970年代の終わりにアルバムを制作しています。その時のプロデューサーが、マイルス・デイヴィスの「オン・ザ・コーナー」に参加していたコリン・ウォルコットです。ウォルコットはECMから作品を出した経験もあり、モンクにもデモを送ることを勧めます。

 当初はボーカリストを迎える準備ができていないと断られますが、本作品に含まれている「ゴッサム・ララバイ」をウォルコットのプロデュースで録音し、それを再度送ったところ、本作品の制作につながりました。ここから30年以上にわたるつきあいが始まります。

 A面には1970年代前半に作られたモンクのソロ曲が4曲収録されました。いずれもシンプル極まりない演奏をバックにモンクがボイス・パフォーマンスを披露します。意味のあるフレーズが登場するのは三曲目の「ザ・テイル」のみという徹底ぶりです。

 演奏はウォルコットのパーカッションやバイオリン、そしてモンク自身他によるピアノのみです。モンクのヴォイスが自由自在に飛翔する軽やかなパフォーマンスが堪能できます。これだけ自由自在に声を操るのは大そう難しいことに思われます。

 B面は1979年に作られたタイトル曲「ドルメン・ミュージック」です。24分近い大作で、こちらにはモンクの他に5人のボーカリストが登場します。過去14年間にわたってソロ歌手として活動してきたモンクにとって、グループ・ボーカルは挑戦だったようです。

 モンクは絵画やダンスのように抽象的な性格をもったパーソナルなスタイルのボーカル・ミュージックを創造することを追い求めます。ある程度スタイルが確立したところで、今度はそれを他の人にも教えることを指向します。その素晴らしい成果がこの曲です。

 伴奏はここでも最小限に抑えられており、男声女声とりまぜた6人のボイス・パフォーマンスが堪能できる仕掛けになっています。「声は言葉であり、常に新しい発見がある世界です」というモンクの言葉がとにかく自由な声の乱舞の中で証明されていきます。

 ビョークは本作品を初めて聴いた時に人生が変わるほどの衝撃を受けたそうで、「ゴッサム・ララバイ」は彼女のレパートリーになります。そしてモンクは行き詰っていた時に、ジャニス・ジョプリンを聴いて、声には圧倒的な自由があることを確信したそうです。

 ジャニス、モンク、ビョークとつながる系譜が凄い。本作品はモンクを世界に知らしめたECMの偉業ともいえる作品です。私も発表当時、まだ学生時代だった頃に聴いて大いに感動しました。自由とは何か、答えは難しいですが、ここに少なくとも手掛かりはあります。

Dolmen Music / Meredith Monk (1981 ECM)



Tracks:
01. Gotham Lullaby
02. Travelling
03. The Tale
04. Biography
05. Dolmen Music
a) Overture And Men's Conclave
b) Wa-Ohs
c) Rain
d) Pine Tree Lullaby
e) Calls
f) Conclusion

Personnel:
Meredith Monk : voice, piano
***
Julius Eastman : voice, percussion
Robert Een : voice, violoncello
Andrea Goodman : voice
Paul Langland : voice
Steve Lockwood : piano
Monica Solem : voice
Collin Walcott : percussion, violin