ジャケットを見ると一目瞭然、グレイトフル・デッドのセカンド・アルバムは超がつくサイケデリックなアルバムです。ジャケットはLSDを使用した時に眼前するヴィジョンを表したものだということです。こんな風景が頭の中に浮かんでくるんですね。紫とは..。

 よくよく見ると、描かれているのはデッドのメンバーの顔です。京劇のポスターのようでもあり、ヒンズー教の神様のようでもあり、曼荼羅のようでもあります。西洋人にとってのサイケデリックは東洋の精神世界のイメージなんでしょうね。

 グレイトフル・デッドのファースト・アルバムは多分に勢いで制作したようですが、セカンド・アルバムはしっかりと作り込まれています。バンドはサウンド・エンジニアリングにも興味を持ち始め、自分たちの好きなようにやり始めました。 

 そのため、プロデューサーのデイヴ・ハッシンジャーは途中で降板してしまい、代わって彼らの意に沿う変なエンジニア、ダン・ヒーリーがプロデューサー的な仕事を引き受け、ライブ録音とスタジオ録音をミックスさせながらサウンドが作り上げられていきました。

 今ならさほど難しい仕事ではないのでしょうが、当時はアナログ時代です。適当な機材に録音されたライブのサウンドは音質もテンポもばらばらです。それをうまくつないだのがヒーリーです。時にはテープを指で押さえてテンポを調節したそうです。いい話です。

 メンバーには、10歳の頃からドラムのことしか考えてこなかったというブルックリン生まれのミッキー・ハートが加わって、ダブル・ドラムスとなりました。さらにフィル・レッシュの友人トム・コンスタンティンがピアノの弦にジャイロスコープが落ちる音などを添えています。

 ダブル・ドラムスとなったデッドのジャム・セッションにはさらに磨きがかかり、フィル曰く「音の宇宙」が出現しはじめました。さらに歌詞が弱点と言われた彼らの前にジェリー・ガルシアの旧友ロバート・ハンターが現れ、良質な歌詞を提供するようになります。

 こうして徐々に完成形に近づいてきたデッドは自信を深めてサイケデリック道を邁進するようになりました。前作のようなロック・バンド的なサウンドから、もろに実験的な部分が結構な割合を占めるようになりました。これもまたデッドの本領と言えば本領です。

 強烈にサイケデリックの時代を感じるアルバムは評論家受けはとても良かったものの、セールスは今一つとなってしまい、スタジオを使い倒したおかげで大きな赤字を背負ってしまいました。後にマーケティングの教科書になるデッドにもこういう時代がありました。

 この作品の1曲目は組曲形式の「ザッツ・イット・フォー・ジ・アザー・ワン」です。この曲の三番目のパートから、デッドのライブの見せ場の一つとなる「ジ・アザー・ワン」が発展していきます。何百回も演奏されることになる重要なレパートリーです。

 ライヴが身上のデッドには実験的にすぎる本作はあまり似合わない気がしないでもないのですが、そこから「ジ・アザー・ワン」が派生するとなると、やはりこのフェーズもデッドの円熟にとっては必要な過程だったのだなと納得するしかありません。

Anthem of the Sun / Grateful Dead (1968 Warner Bros.)

*2011年11月1日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. That's It For The Other One
a. Cryptical Envelopment
b. Quadlibet For Tender Feet
c. The Faster We Go, The Rounder We Get
d. We Leave The Castle
02. New Potato Caboose
03. Born Cross-Eyed
04. Alligator
05. Caution (Do Not Stop On Tracks)
(bonus)
06. Alligator (live)
07. Caution (Do Not Stop On Tracks) (live)
08. Feedback (live)

Personnel:
Jerry Garcia : guitar, kazoo, vibraslap, vocal
Bob Weir : guitar, kazoo, vocal
Ron McKernan : organ, celesta, claves vocal
Phil Lesh : bass, trumpet, harpsichord, guiro, kazoo, piano, timpani, vocal
Mickey Hart : drums, percussion
Bill Kreutzmann : drums, percussion
Tom Constanten : pianom electronic tape