パティ・スミスは前作「ゴーン・アゲイン」から今度は1年で新作を発表しました。本格的に音楽に復帰したという話は嘘ではありませんでした。大変めでたいことです。本作品はその復帰第二作「ピース・アンド・ノイズ」です。落ち着いたジャケットがまた素敵です。

 本作品で、スミスの音楽的なパートナーを務めるのは前作にも参加していたオリバー・レイです。スミスは本作品の制作にあたって、レイと一緒にジョン・コルトレーンやグレイトフル・デッド、それに古いブルースなどを聴き漁ったそうです。

 逆に新しい音楽にはさほど心を動かされなかった模様で、そのことはとても素直に本作品のサウンドに表れています。本作品でも堂々たるオールド・スタイルのロックが連打されています。スミスはデビュー当時から変わらないといえば変わらない。ロック一筋です。

 バンドはレイに加えて、レニー・ケイとジェイ・ディ・ドゥーティー、そして前作からバンド入りしたトニー・シャナハンです。ゲストとしては1曲だけREMのマイケル・スタイプがコーラスで参加しているのみです。バンドとしての一体感が増しており、ここも実にロック的です。

 驚くべきことに本作品からシングル・カットされた「1959」はグラミー賞のベスト女性ロック・ボーカル・パフォーマンス賞にノミネートされました。アルバムは商業的にはさっぱりでしたけれども、グラミー賞の審査員の世代には刺さる王道ロックなのでした。

 「1959」はスミスに影響を与えたウィリアム・バロウズの「裸のランチ」が発表された年でもありますが、この曲に言及されているのは同年に起こったチベット動乱です。スミスとシャナハンの共作になる力強いロック・チューンはなるほどグラミー賞に相応しい。

 前作は夫のフレッドをはじめ、多くの人々の死を乗り越えて制作されました。あれから1年、本作品には前作以上に死をテーマにした楽曲が多いです。曲名だけでも「デッド・シティ」に「デス・シンギング」、そしてそのものずばりの「メメント・モリ」。

 「メメント・モリ」はラテン語で「死を忘れるなかれ」といった意味の警句です。ここではバンドによるスタジオでのインプロヴィゼーション・ライヴを10分にわたって繰り広げています。まさにアルバムのテーマであり、中心に鎮座している曲です。パンクの女王全開です。

 アルバムにはビート詩人アレン・ギンズバーグの詩を歌にした「スペル」や、1997年に起こったヘヴンズ・ゲートによる集団自殺事件に関する「ラスト・コール」、大恐慌時代のことを歌いつつ画家ジャクソン・ポロックを想起させる「ブルー・ポール」など聞きどころは多いです。

 中でも「ウェイティング・アンダーグラウンド」ではスミソニアン博物館のレーベルから出されているアラバマの黒人フォーク・ミュージックがサンプリングされていることが特筆されます。これはスミス個人の音楽的な背景になっているということです。

 ここでの死を悼むトーンがアルバム全体を支配していると言ってもよいでしょう。しかもけっして首を垂れるのではなく、しっかりと頭をあげて力強く未来に向かっていく態様です。ここでもスミスはとても正直にロックの力を信じて堂々と歩んでいます。凄い人です。

Peace and Noise / Patti Smith (1997 Arista)

参照:Patti Smith : Making 'Peace' by Mark Jenkins (The Washington Post)



Tracks:
01. Waiting Undergrouns
02. Whirl Away
03. 1959
04. Spell
05. Don't Say Nothing
06. Dead City
07. Blue Poles
08. Death Singing
09. Memento Mori
10. Last Call

Personnel:
Patti Smith : vocal, clarinet
***
J.D. Daugherty : drums, organ, harmonica, bass
Lenny Kaye : guitar, bass, pedal steel
Oliver Ray : guitar
Tony Shanahan : bass, piano, drums

Michael Stipe : chorus