最も成功したヒップホップ・デュオの一つ、アウトキャストの5作目となるアルバム「スピーカーボックス/ザ・ラヴ・ビロウ」です。アウトキャストは本当に自由な人々です。このアルバムなど何のしがらみもわだかまりもなく、自由自在に作られている気がします。

 そもそも形態からして異例です。二枚組CDはビッグ・ボーイによる「スピーカーボックス」とアンドレ3000による「ザ・ラヴ・ビロウ」がカップリングされています。デュオのそれぞれがソロでアルバムを制作して、それを合体して発表するとは面白い試みです。

 ジャケットもそれぞれ用意されていてどちらでも楽しめるようになっています。二つが合体した絵柄は販促用で、配信などではそちらが使われています。ここに掲載したジャケットはビッグ・ボーイの姿を正面から写した写真で、「スピーカーボックス」用の方です。

 この二枚は完全にソロかというとそうでもなく、それぞれに一部、相方が登場しています。実際はほんの一部にすぎませんけれども、それでも全体にそこはかとなくデュオの姿がほのみえるところが何ともにくいです。お互いに気にかけあっているのでしょう。

 ビッグ・ボーイの「スピーカーボックス」はヒップホップ全開で、ビートのきいたサウンドに乗せて軽快なラップが輝いています。一方のアンドレ3000の「ザ・ラヴ・ビロウ」はR&Bやソウル色が濃厚で、アンドレによるブラック・ミュージック・ショーを見ているかのようです。

 とにかく自由です。しばしばアンドレの作風はプリンスに比較されますけれども、アンドレの場合はプリンスにあった強烈な自我への執着もなさそうで、さらに軽やかです。ビッグ・ボーイはヒップホップ道を進んでいますけれども、そちらもはみ出し具合がとにかく軽やか。

 このアルバムなど全体で2時間を超える長さですけれども、とにかく彼らの作品はあの手この手が尽くされていてとても楽しいのでまったく飽きません。アルバムは当然のごとく全米1位を獲得し、500万セットを売り上げてダイアモンド・ディスクに輝いています。

 シングル・ヒットも輩出しており、アンドレの「ヘイ・ヤ」が9週連続1位となり、ビッグ・ボーイの「ザ・ウェイ・ユー・ムーヴ」も1位を獲得しています。他にも二人の作品である「ローゼズ」もトップ10ヒットです。要するに本作品はヒップホップでも飛びぬけたヒットを記録しました。

 「ヘイ・ヤ」は1960年代のソウル・ショウの雰囲気を模したMVも楽しい不思議な曲です。このメロディーとリズムは一度聴いたら忘れられません。「ザ・ウェイ・ユー・ムーヴ」はラテンなグルーヴが映えるこれまたキャッチーな曲です。振れ幅が大きいですがどちらも凄いです。

 フィーチャーされているアーティストも豪華です。中にはジェイZの名前もありますし、驚くことにノラ・ジョーンズまで参加しています。ここらあたりも全く自由な雰囲気を感じます。グラミー賞のアルバム・オブ・ザ・イヤーも当然だと思わせる名作はゲストもひきつけます。

 なお、グラミー賞受賞後に若干アルバムが改変されています。「サウンド・オブ・ミュージック」の「私のお気に入り」のカバーが隠しトラックから表に昇格になるなどしました。今ではそちらが標準のようです。そこもまた自由。とにかく自由なデュオの自由な作品です。

Speakerboxxx / The Love Below / Outkast (2003 Arista)



Tracks:
The Love Below
01. The Love Below (intro)
02. Love Hater
03. God (interlude)
04. Happy Valentine's Day
05. Spread
06. Where Are My Panties?
07. Prototype
08. She Lives In My Lap
09. Hey Ya!
10. Roses
11. Good Day, Good Sir
12. Behold A Lady
13. Pink & Blue
14. Love In War
15. She's Alive
16. Dracula's Wedding
17. My Favorite Things : hidden track
18. Take Off Your Cool
19. Vibrate
20. A Life In The Day Of Benjamin André (Incomplete)
Speakerboxxx
01. Intro
02. Ghetto Musick
03. Unhappy
04. Bowtie
05. The Way You Move
06. The Rooster
07. Bust
08. War
09. Church
10. Bamboo (interlude)
11. Tomb Of The Boom
12. E-Mac (interlude)
13. Knowing
14. Flip Flop Rock
15. Interlude
16. Reset
17. D-Boi (interlude)
18. Last Call
19. Bowtie (postlude)

Personnel:
Antwan "Big Boi" Patton : vocal, programming, keyboards
André "3000" Benjamin : vocal, keyboards, programming, guitar, sax
***
Sleepy Brown, Jazze Pha, Killer Mike, Konkrete, Big Gipp, Ludacris, E-Mac, Jay-Z, Khujo, Cee-Lo, Henry Welch, Slimm Calhoun, Lil Jon & The East Side Boyz, Mello, Rosario Dawson, Kelis, Norah Jones : featured artists
Mr. DJ, Carl Mo : producer
Myrna Crenshaw, Joi, Debra Killings, Tori Alamaze, Killer Mike, Marianne Lee Stiff, John Frisbee, Rabeka Tunei : chorus
Marvin "Chanz" Parkman, Kevin Kendrick : keyboards
Donnie Mathis, David Whild, Zaza, Darryl Smith, Tomi Martin : guitar
Preston Crump, Aaron Mills, Moffet Morris, Kevin Smith : bass
Victor Alexander, Jef Van Veen : drums
Hornz Unlimited : horns
Benjamin Wright : string arrangement, conductor
Charles veal, James Sitterly, Mark Casillas, Gina Kranstadt, Marisa McClead, Mark Cargill, Richard Adkins, Tibor Zelig, Yarda Kettner, Louis Kabok : violin
Patrick Morgan, Robin Ross, Michel Vardone, March Vaj : viola
John Krovaza, Martin Smith, Lisa Chien, Catherine Chan : cello
Kelvin Brandon, Kevin O'Neal : contra bass
Gary Harris : sax