「ドリーム・オブ・ライフ」の発表からおよそ7年、パティ・スミスの久しぶりの作品「ゴーン・アゲイン」です。前作は夫フレッド・ソニック・スミスとの仲睦まじい共同作品でしたけれども、本作品にはフレッドの演奏する姿はありません。フレッドは1994年に亡くなってしまいました。

 この7年間に亡くなったのはフレッドばかりではありません。パティ・スミス・グループを支えたキーボードのリチャード・ソール、弟のトッド・スミス、そしてパティの大事な人であった写真家のロバート・メイプルソープ。まだ十分に若い彼らの死は大きな衝撃だったことでしょう。

 パティは子どもが大きくなってきたことから、ニューヨークに戻ってきました。そうして長年の友人だったREMのマイケル・スタイプや詩人アレン・ギンズバーグらの強い勧めもあって、音楽に復帰しました。短いながらボブ・ディランとのツアーも行っています。

 そうして旧友を集めて本作品の制作に取り掛かります。プロデュースを担当するのは初期のパティを支えたレニー・ケイとマルコム・バーンです。バーンはダニエル・ラノワとの仕事で知られ、ボブ・ディランの「オー・マーシー」などをラノワと手がけています。

 バンドはケイとジェイ・ディ・ドゥーティーの旧パティ・スミス・グループ組にマイケル・スタイプと関りのあるトニー・シャナハン、後にエミネムと組むルイス・レストの二人を加えた四人が中心で、そこにさまざまなゲストが関わっています。まことに復帰作に相応しいです。

 ゲストにはトム・ヴァーレインやジョン・ケイル、さらには生前最後の録音になってしまったジェフ・バックリーの姿もみえます。ニューヨークはパティ・スミスの復活を喜んでいるように思われます。こうしたアーティストのつながりはニューヨークの強みです。

 自らの人生と音楽がほぼぴったりと重なるパティ・スミスのことです。本作品に収録された曲の大半は喪失に関するものです。最愛の夫をはじめ、これだけ短期間に大切な人々を亡くしたわけですから詩人パティにとっては当然といえば当然です。

 その中に「アバウト・ア・ボーイ」という曲があります。ここでは1994年に自ら命を絶ったニルヴァーナのカート・コベインを歌っています。スミスはコベインに会ったことはないそうですが、コベインのことを高く評価していました。喪失続きの中での喪失です。

 サウンドは決して涙にくれているわけではありません。力強い堂々たるサウンドが展開されています。フレッドが作曲した冒頭のタイトル曲などは特に力強いです。喪失の重みに耐えることができるアートの力を信じているアーティストのサウンドです。

 オーソドックスな王道中の王道のロックを展開するスミスです。これもまたロックへの強い信頼を表しています。もはや1990年代も後半に差し掛かっていますが、新しいものには目もくれず、一切迷いのないすがすがしいロックだといえます。

 そして、♪いい知らせじゃないなら何ももってこないで♪という一節が切ないディランの「悪意の使者」のカバーや、天国のフレッドにあてた「フェアウェル・リール」など、スミスの人生が赤裸々に表現されていきます。スミスはここでもこの上なく誠実です。

Gone Again / Patti Smith (1996 Arista)



Tracks:
01. Gone Again
02. Beneath The Southern Cross
03. About A Boy
04. My Madrigal
05. Summer Cannibals
06. Dead To The World
07. Wing
08. Ravens
09. Wicked Messenger
10. Fireflies
11. Farewell Reel

Personnel:
Patti Smith : vocal, guitar
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Lenny Kaye : guitar
Luis Resto : keyboards
Jay Dee daugherty : drums
Tony Shanahan : bass
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Oliver Ray : guitar, whistle
Tom Verlaine : guitar
Cesar Diaz : guitar
Eileen Ivers : fiddle
Hearn Gadbois : percussion
Jane Scarpantoni : cello
Jeff Buckley : vocal
John Cale : organ
Kimberly Smith : mandolin
Rick Kiernan : saw
Whit Smith : guitar
Malcolm Burn : dulcimer, guitar