学生時代に活動していたバンドが、当時は何も残せなかったからと、一夜限りで再結成して一枚のアルバムを作り上げた。そんな話から連想されるのは自己満足の緩い雰囲気ですけれども、クワイエット・サンの場合はそんな雰囲気とは遠いところにある名作です。

 クワイエット・サンはロキシー・ミュージックのギタリスト、フィル・マンザネラの学生時代のバンドです。マンザネラはロキシーでの成功を糧に、バンドを再結集してアルバムを作ることを企画しました。しかし、レコード会社はこれを嫌い、代わりにソロ・アルバムを作りました。

 それでもめげないマンザネラは立派なことに、ソロ作品のために押さえていたスタジオの空き時間を使って、クワイエット・サンの作品を作り上げてしまいました。何という知恵者、レコード会社もこれには驚いたことでしょう。名作「メインストリーム」の誕生です。

 こうした事情から本作品はマンザネラのソロ「ダイアモンド・ヘッド」と表裏一体の関係にあります。実際、「ダイアモンド・ヘッド」には、「イースト・オブ・エコー」でクワイエット・サンの演奏がそのまま使われてる他、クワイエット・サンの曲から派生した曲も3曲収録されています。

 このクワイエット・サンは南ロンドンのダリッジ・カレッジというパブリック・スクールで原型が形作られたバンドです。メンバーはマンザネラ、ベースのビル・マコーミック、ドラムスのチャールズ・ヘイワード、キーボードのデイヴ・ジャレットの四人組です。

 マコーミックは母親同士が友達だった縁でロバート・ワイアットと知り合い、後にマッチング・モールで共演しています。ヘイワードもゴングに参加したことがありました。要するに彼らは英国プログレッシブ・ロックのカンタベリー・シーンと深い関係にあります。

 実際、クワイエット・サンのサウンドは典型的なカンタベリー・サウンドです。一言でいえば、ジャズ・ロック、複雑なアンサンブルを聴かせるタイプのプログレです。彼らはソフト・マシーンのツアー・サポートを行っており、同じ系統に属しているといえます。

 クワイエット・サン自体は1970年から足掛け3年くらいしか存続していません。メンバーの年齢でいえば20歳前後の時期です。その間に彼らはデモ・テープを制作してレコード会社に送りましたが、内容は誉めてもらえるものの、契約には至りませんでした。

 そのリベンジに制作された本作品に「メインストリーム」と名付けたのですから彼らの心意気が分かるというものです。学生時代の曲ばかりというこの作品の完成度の高さは目を見張るばかりです。こうして陽の目をみたことは幸運でしたが、必然でもあったのでしょう。

 サウンドは土の匂いや汗くささなどとは無縁な楽器のアンサンブルが見事です。ボーカルは「ロングロング」一曲のみで、後はすがすがしいまでにしゅっとしたインストゥルメンタル曲ばかりです。アルバム全体が一つの曲であるかのようなまとまりも素晴らしいです。

 ところでチャールズ・ヘイワードは、後にニュー・ウェイヴのアヴァンギャルド部門で尊敬を集めるディス・ヒートで活躍することになります。本作品でもそのアヴァンギャルドなドラミングは際立っています。ディス・ヒートのファンの方にも注目されるべきバンドです。

Mainstream / Quiet Sun (1975 Island)

*2013年2月22日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Sol Caliente
02. Trumpets With Motherhood
03. Bargain Classics
04. R.F.D.
05. Mummy Was An Asteroid, Daddy Was A Small Non-Stick Kitchen Utensil
06. Trot
07. Rongwrong

Personnel:
Charles Hayward : drums, percussion, keyboards, voice
Dave Jarrett : piano, organ, VCS3
Phil Manzanera : guitar, piano
Bill MacCormick : bass, chorus
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Brian Eno : synthesizer, treatments
Ian MacCormick : chorus