人間石鹸とはまた剣呑な名前をつけたものです。ドイツ人が戦争中に人間の死体の脂肪を使って石鹸を製造していたという都市伝説があります。アラン・レネ監督はホロコーストを描いた「夜と霧」にてこれを実話として扱ったほどです。いずれにしても凄絶な話です。

 この作品は日本のノイズ・インダストリアルのユニット、人間石鹸によるセカンド・アルバム「インフェルノ」です。ファースト・アルバムは2022年3月に発表されていますから、8か月での新作登場です。願いに反してウクライナでは残念ながらまだ戦争が続いています。

 人間石鹸は「日本を代表するノイズインダストリアル」進入禁止とギターのフルセ、モデュラー・シンセのナナウミによる「怒インダストリアルコアのユニット」です。本作品は進入禁止のレーベルである迷宮入りレーベルから発表されました。

 いつもはさまざまな楽器を使う進入禁止ですが、この作品ではホーミーとノーマル、両方のヴォイスとブルースハープを担当しているとクレジットされています。器楽演奏は基本的にフルセとナナウミが担い、進入禁止が声でパフォーマンスする構成です。

 一曲目はタイトル曲の「インフェルノ」で、名古屋のライブハウス、鶴舞デイトリップでのライヴ音源だということです。ゲストにはタートル・アイランドなどで活動するドラマーの竜巻太郎が招かれており、どかどかドラムを叩いています。これがとてつもなくかっこいいです。

 この曲ではハーシュなハードコア・ノイズが隙間なく空間を埋め尽くしています。進入禁止はホーミーでのボーカリゼーションに加えて、♪嘘をついたのはお前か♪♪虫になりたい♪などと言葉責めも披露しています。ノイズの最も難しいパートですが卒なくこなしています。

 続く二曲目の「野良」と三曲目の「albluz」は組曲になっています。こちらはライヴではなく、スタジオ録音のようです。ここでのゲストは植田康之と益子武の二人です。植田はギンブリというグナワ音楽で使われる弦楽器の奏者で、自らギンブリを制作もしています。

 植田によれば、グナワは「モロッコの伝統音楽、民間音楽療法であり生トランスミュージック」です。そして益子が演奏しているのはギターに加えてクラカボと称するカスタネット様の楽器で、これもまたグナワ音楽で使用される楽器です。

 要するにインダストリアル・ノイズとモロッコの伝統音楽が対峙しているわけです。ドラムが入っていない分、ノイズギターとシンセによるドローンを背景にグナワ音楽勢が空間を埋め尽くしていきます。進入禁止らしい異種格闘技戦が楽しいです。

 ここでは進入禁止はボーカルに加えてブルース・ハープを吹きまくっています。何でも「録音の数日前に」、「ブルースハープの講師と大喧嘩をしブルースハープを習うのをやめてしま」ったのだそうで、その鬱憤までがここにぶつけられている様子です。

 4人から5人のユニットでの演奏ですから、隙間が一切ない分厚いインダストリアルなノイズがこれでもかと連打されます。それでもどこかオーガニックな感触があるのが人間石鹸の素敵なところです。そこが魔術的と称される所以かもしれません。

Infierno / NIngensekken (2022 迷宮入り)



Tracks:
01. Infierno
02. 野良
03. albluz

Personnel:
進入禁止 : khommei, voice, harp
Furuse : guitar
Nanami : modular synth
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竜巻太郎 : drums
植田康之 : gimbri
益子武 : guitar, qaraqabo