「先史時代の楽器:旧石器時代」と題された面白い作品です。先史時代の音楽を追求する考古学者ウォルター・マイオーリと愛娘ルーチェを中心とするアート・オブ・プリミティヴ・サウンドなるプロジェクトの作品で、旧石器時代の音楽を再現しようとしています。

 考古学には実験考古学と呼ばれる分野が存在します。実験とは考古遺物を実際にさまざまな形で使用することで、その実験により使用方法に関わる仮設を検証していきます。ウォルターは特に音楽の分野で実験考古学者として有名な方です。

 ウォルターは、音楽家としてもワールド・ミュージックのバンド、アクチュアラやフュチュロ・アンティコなどを率いて作品を発表していますし、さまざまな自然史博物館のプロジェクトなどにも参加するなど、精力的な活動を続けています。1950年ミラノ生まれです。

 ワールド・ミュージックもまた重要な要素になります。考古学にはさらに民族考古学なる分野もあります。すなわち現存する伝統的文化を保持すると思われる民族集団を調査することで考古学上の仮説を検討していこうとする手法です。

 こうした学術研究の成果が本作品に結実しています。すなわち、考古遺跡から発掘された楽器として使用されたと思われる遺物を再現して、石器時代さながらの生活をしている民族の音楽活動を参照して旧石器時代の音楽そのものを再現しようとしているわけです。

 ウォルターの解説によれば、人類はまず最初に石や木、貝殻などをそのまま打ち付けたり吹いたりして音を出していたと思われます。その後、そうした物体に人工的に穴をあけたものが人類最初の楽器として登場します。およそ4万年くらい前のことです。

 続いて登場するのはフルート様の笛です。これが2万5千年前。考えてみれば当然ですが、ボーカルがどのように使われたのかは発掘調査では分かりません。それゆえ、声を増幅するディジェリドゥーのような楽器はここでは範囲外とされています。

 この作品ではフルートまでのさまざまな楽器やオブジェを使用してサウンドを作り出しています。その際、洞窟の中や野原、山や川などさまざまな場所で演奏するなどして過去に迫ります。また、子どもに演奏させることで小賢しい理性を排除する試みも参考にしたそうです。

 一番重要なことは、おそらくは合唱されたであろうボーカルを入れていないことから、楽器も一部合奏はあるものの基本的にはソロで演奏していることです。神官が演奏していることを想定していることになります。古代人にとって演奏は聖なるものであるという考えのようです。

 音楽は自然の模倣で始まり、それが同時に自然と人間の調和をも表現している。そんな基本的な考えです。みんなでワイワイ演奏するというわけではありません。太古の昔からアートとエンターテインメントは分かれていたのですね。意外にエンタメは後から来たようです。

 ここでは、石や木、貝殻に葉っぱ、竹や葦の笛に骨や亀の甲羅など、さまざまなオブジェのサウンドが慈しむように提示されています。音楽の特性でしょう、太古の昔も基本的には現在と変わりません。十分に刺激的で、現在進行形の音楽として十分鑑賞に耐えられます。

Strumenti Musicali Della Preistoria : Il Paleolitico / Art of Primitive Sound (1991 Archeosound)



Tracks:
01. The Dance Of Leaves
02. Flautes
03. Eagle Bone For The Ghost Dance
04. Flyiing Rhombs
05. The Horn, The Tortoise, The Bow And The Flintstone
06. Sonorous Stones In The Cave
07. River Stones
08. Vegetable Seeds : Jungle Voices
09. The Spirit Of The Marshed
10. Sea Language
11. Amazonian Finds

Personnel:
Walter Maioli
Patricia Meyer
Luce Maioli
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S.W. Nirodh
Asaga
Luca Migliaccio
Giuliano Rosa