2004年9月にドイツのミュンヘンにて1週間にわたって「予見不能」と題された即興と作曲をめぐるシンポジウムが開催されました。主催はミュンヘン市の文化局とミュンヘン大学の音楽学科です。本作品はそのシンポジウムでの演奏を収めたアルバムです。

 同シンポジウムからは先に9月11日に行われたロスコー・ミッチェルがリードをとる演奏を収録したアルバムが発表されています。本作品はその前日9月10日に行われたエヴァン・パーカーをリーダーとする演奏を収録しています。面白そうなシンポジウムです。

 演奏するメンバーは両日ともに同じです。事前にミッチェルとパーカーが選んだ総勢14人からなるトランスアトランティック・アート・アンサンブルが演奏にあたっています。二人にとって馴染みのミュージシャンとほとんど接点のないミュージシャンが混在しています。

 パーカー・サイドから選ばれたのはバイオリンのマイケル・フォルマネック、ドラムのポール・リットン、ベースのバリー・ガイなどです。ここにクラシック畑のミュージシャンも加わって、アンサンブルが結成されています。大西洋の東西から参加しているところが特徴です。

 タイトルの「ブーストロフェドン」とは、ギリシャ語で「畑を耕す牛のように回る」という意味だそうです。右から左へ行くと、今度は左から右へ行く。そういうことです。現代ではインクジェット・プリンターのヘッドの動きといえば分かりやすいでしょうか。

 パーカーはこの言葉に加えて、と「ゴドーを待ちながら」で有名なサミュエル・ベケットの「追い出された男」を引き合いに出しています。階段の段数について最下段と最上段をどうカウントするか分からず、何千回と上り下りしているのに何段か分からない、というくだりです。

 パーカーにとってこのことは即興演奏で方向を見つけることに深く関わっています。馴染みの領域に戻り、そしてまたそこからどのように飛び出していくのかを毎度毎度学び直す。そんな意味合いです。何やら即興の極意っぽい感じがしてきました。

 本作品では「序曲」と「終曲」の間に「畝」と題された曲が6曲、計8曲が切れ目なく演奏されています。「畝」では中心になる楽器がそれぞれ二つずつ予め決められています。この選び方にパーカーの企みが表れています。二人による対決をみんなで盛り立てています。

 たとえば「畝1」は「フルート対ピアノ」。「畝3」は「チェロ対サックス」なのですが、サックス奏者はパーカーを含めて3人いるので、ここではアンダース・スヴァノーの名前が指定されています。「畝6」はいよいよミッチェルとパーカーの対決が聴かれます。

 「終曲」はアンサンブルの短い演奏でつないでパーカーともう一人を除く12人がソロを披露します。こうして一人一人にフォーカスをしていくところが、クラシカルともいえるアンサンブルを中心とするミッチェル・リードの演奏との最大の違いです。

 即興と作曲の問題はよく理解できませんけれども、パーカーがリードした本作品はいわゆるジャズっぽい演奏で、それぞれの演奏者が行きつ戻りつしながら懐の深い演奏を繰り広げている様子が感動的です。リーダー二人のソロの応酬などは鳥肌必至であります。

Boustrophedon (In Six Furrows) / Evan Parker and the Transatlantic Art Ensemble (2008 ECM)

映像が見当たりませんでした。悪しからず。

Tracks:
01. Overture
02. Furrow 1
03. Furrow 2
04. Furrow 3
05. Furrow 4
06. Furrow 5
07. Furrow 6
08. Finale

Personnel:
Evan Parker : soprano sax
***
Roscoe Mitchell : soprano sax, alto sax
Anders Svance : alto sax
John Rangecroft : clarinet
Neil Metcalfe : flute
Corey Wilkes : trumpet, flugelhorn
Nils Bultmann : viola
Philipp Wachsmann : violin
Marcio Mattos : cello
Craig Taborn : piano
Jaribu Shahid : bass
Barry Guy : bass
Tani Tabbal : drums, percussion
Paul Lytton : drums, percussion