ロキシー・ミュージックは、大成功したアルバム「アヴァロン」を引っ提げて、1982年8月から翌年3月まで、ヨーロッパから日本、そしてアメリカへと続くワールド・ツアーを敢行しました。このうち、日本は83年2月、大阪、名古屋、福岡、京都、東京で計7回のライブでした。

 私は会社の同僚と東京の日本武道館公演に行きました。ビールを飲みすぎたせいでアンコール前にトイレに立つという大失態でしたが、あせって会場に戻り、視界が開けた瞬間、♪ちゃーらららー♪と始まった「ジェラス・ガイ」は一生忘れません。まさに鳥肌がたちました。

 このアヴァロン・ツアーはヨーロッパではキング・クリムゾンが前座を務めるという恐ろしいこともありました。思い起こせばブライアン・フェリーはキング・クリムゾンのオーディションに落ちた人です。こんな形で共演するとは、因縁を感じざるを得ません。

 このツアーは直後にグラスゴーでの公演の模様を収録した4曲入りEP「ハイ・ロード」が発表された後、同名ながらフランス公演を収めたビデオが発表されました。そうして1990年になって、突然、フル・アルバム「ハート・スティル・ビーティング」が発表されたという経緯です。

 ロキシー・ミュージックはアヴァロン・ツアーの後、活動を停止して、18年後の2001年に再結成します。このアルバムが発表された頃は絶賛解散中でしたから、突然の発表にただただ驚きました。すわ再結成かと思ったのですが、実現するのはまだ10年後です。

 本作品はフランス公演が収録されていると書かれていますが、実際にはいくつかのヨーロッパ公演から曲が選ばれているようです。グラスゴー公演の音源も含まれているようですが、確かなところはよく分かりません。残念ながら日本公演は含まれていなさそうです。

 収録された曲は、セットリストを忠実に反映しています。2枚目以降のスタジオ・アルバムから万遍なく選ばれており、特に「アヴァロン」からの曲が多いわけではありません。ただ、「インディア」の後の実質オープナーは「メイン・シング」でした。これが欠けたのは残念です。

 フェリーのソロからも一曲「キャント・レット・ゴー」が選ばれています。ソロというよりもロキシーっぽい曲ですから、大変座りがよいです。そしてフィル・マンザネラのギターをフィーチャーしたインスト曲「インポッシブル・ギター」がアルバムのいいアクセントになっています。

 何よりもライブの白眉はカバー曲2曲です。一つはニール・ヤングの大傑作「ライク・ア・ハリケーン」です。これには大いに驚きました。私もヤング作品の中で一番好きな曲だけに歓びも一入でした。この曲を選ぶセンスが素晴らしい、と膝をうったものでした。

 そして初の全英1位シングル「ジェラス・ガイ」です。ジョン・レノンが凶弾に倒れた2か月後に追悼の意を込めて発表されたカバーです。レノンの曲の中でも地味なく曲でしたけれども、駄目男がカバーした駄目男の歌は追悼には見事なまでに相応しかった。輝いています。

 バンドはアンディ・ニューマークのドラムスを背骨にみんなが気持ちよく演奏しています。欠けているのはエディー・ジョブソンのバイオリンのみ。ことライヴに関して言えば、結成10年にして到達した高みです。スタジオ作からは消えかかっていたバンド・サウンドが見事です。

Heart Still Beating / Roxy Music (1990 Reprise)

*2013年3月31日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. India
02. Can't Let Go
03. While My Heart Is Still Beating
04. Out Of The Blue
05. Dance Away
06. Impossible Guitar
07. A Song For Europe
08. Love Is The Drug 恋はドラッグ
09. Like A Hurricane
10. My Only Love
11. Both Ends Burning
12. Avalon
13. Editions Of You
14. Jealous Guy

Personnel:
Bryan Ferry : vocal, keyboards
Phil Manzanera : guitar
Andy Mackay : sax, oboe
***
Neil Hubbard : guitar
Andy Newmark : drums
Alan Spenner : bass
Jimmy Macken : percussion
Guy Fletcher : keyboards
Fonzi Thornton, Michelle Cobbs, Tawatha Agee : chorus