まずジャケットに驚きました。いつもの美女ジャケではありません。しかし、写っている兜の人物がブライアン・フェリーの奥さんだと知って驚愕しました。そうして、ジャケット一面に広がっているのはすべて奥さんの実家の土地だと聞いて腰を抜かしました。 

 ロキシー・ミュージックの8枚目のスタジオ・アルバム「アヴァロン」は世評ではロキシーの到達点であり、最高傑作です。イギリスではもちろん1位となりましたし、アメリカでもじわじわ売れてロキシー唯一のプラチナ・アルバムになりました。商業的にもピークを極めました。

 フィル・マンザネラによる「夜に抱かれて」のイントロのギターで一気にロキシーの極上の音世界に引き込まれ、最後はアンディ・マッケイのオーボエが妖しく映える「タラ」で余韻を残して現実に戻ってくる。まさにロキシーの甘美な音世界を具現したアルバムです。

 改めて聴いてみると、リズム・セクション、特にドラムが凄いことを再確認しました。ほぼ全曲でアンディ・ニューマークが叩いています。ニューマークはスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンで凄いファンク・ドラムを叩いていた人です。これが背骨にあれば何でもできそうです。

 ロキシーは初期からR&Bへの憧れを隠していませんでしたが、ここに来てようやく自家薬籠中の物にしたように思います。このリズムに、マッケイの言う「独特の艶と精密さ」をもった音を重ねて、見事に洗練されたサウンドを作り出しています。シンセの使い方も見事です。

 ただし、R&B調であるとはいえ、なかなかそれに気づかないのは、フェリーのボーカルのせいではないでしょうか。黒人歌手のようにはどうしても歌えないフェリーさんです。そこのところがロキシー・ミュージックの初期から続く魅力でもあります。

 フェリーは初期のロキシーは思うような音が出せなかったと語っています。とういことは後期はかなり思い通りの音が出せたということです。ニューマークを始めとするリズム・セクション、そしてパワーハウスでミックスを担当するボブ・クリアマウンテンの功績は大きいです。

 最初にシングル・カットされた曲は「夜に抱かれて」です。ボーカルが曲の3分の1を残して終わると、シンセサイザーを中心としたアンビエントな演奏が続く面白い曲です。♪これ以上のものは何もない♪と歌われる、これまでのダメ男っぷりが嘘のような自信に満ちています。

 続くシングルはタイトル曲「アヴァロン」です。美しい女声ボーカルは、ヤニック・エティエンヌというハイチ出身の歌手です。ニューヨークのスタジオで録音している時にたまたま隣の部屋から聴こえてきた彼女のボーカルに惚れ込んでの起用です。貢献度ははかり知れません。

 問題は「トゥ・ターン・ユー・オン」です。フェリーのソロ「ベールを脱いだ花嫁」のセッション時の曲で、マンザネラもマッケイも参加していません。曲調はすっぽり収まっていますが、サウンドはやはりトーンが違います。ソロ作品との区別が付きにくくなってきました。

 サエキけんぞう氏は、本作品を「バンド・サウンドの解体」であると指摘しています。バンドである必然性がない状態を各メンバーがぎりぎりで受け止めてできた稀有な作品でしょう。それでも1980年代を代表する極上のサウンドが詰まった名盤です。本当に美しい。

Avalon / Roxy Music (1982 EG)

*2013年3月28日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. More Than This 夜に抱かれて
02. The Space Between
03. Avalon
04. India
05. While My Heart Is Still Beating
06. The Main Thing
07. Take A Chance With Me
08. To Turn You On
09. True To Life
10. Tara

Personnel:
Bryan Ferry : vocal, keyboards, guitar synthesizer
Phil Manzanera : guitar
Andy Mackay : sax
***
Neil Hubbard : guitar
Alan Spenner, Neil Jason : bass
Paul Carrack : piano
Andy Newmark, Rick Marotta : drums
Jimmy Maelen : percussion
Kermit Moore : cello
Fonzi Thornton, Yanick Étienne : chorus