再結成したロキシー・ミュージックの2枚目「フレッシュ&ブラッド」が発表された時にはほっと胸をなでおろしました。一枚だけで解散とはならなかったことに安堵したのでした。みんながそう思ったのか、本作品は前作をはるかにしのぐ大ヒットになりました。

 最初のシングル「オーヴァー・ユー」を聴いて本当に嬉しくなりました。ブライアン・フェリーとフィル・マンザネラの共作で、アンディ・マッケイのサックスが素晴らしい曲です。特に終盤あたりのサックスは美しい。ただのロング・トーンがこんなに美しく響くとは感動です。

 この曲はマンザネラの自宅スタジオが完成したとの知らせを受けてフェリーが見学に行った際に、その場でリズムボックスを使ってフェリーのベースにマンザネラのギターによるセッションが実現し、ものの5分で出来上がったという逸話があります。勢いですね。

 もう一つのハイライトは「セイム・オールド・シーン」です。典型的なピコピコ・サウンドに乗せて歌われるこの曲は映画「タイムズ・スクウェア」に使われてヒットしました。これも終盤に出てくるマッケイのロング・トーンが素晴らしい。♪若い恋はみっともないもの♪と涙を誘います。

 マッケイのサックスは本当に洗練されてきました。前期と後期の最大の違いかもしれません。「マイ・オンリー・ラヴ」のサックスも素敵です。ただし、私は以前のひょっとこのようなサックスも大好きだったので、そちらも聴きたいなと思ってしまいます。

 本作品は最高傑作とされる「アヴァロン」の露払い的に捉えられますが、英国では60週以上にわたってチャートインしており、そのうち4週間1位の座にありました。この数字だけなら「アヴァロン」を超えています。新たなファンを獲得した名作ではあるんです。

 しかし、デビュー当時からドラムをたたき続けてきたポール・トンプソンは指を骨折したことをきっかけにバンドを去りました。ここでドラムを叩いているのはアンディ・ニューマークやサイモン・フィリップスなど凄腕のミュージシャンです。ちょっと寂しい気がしました。

 そのことに象徴されるようにバンド感はさらに薄れてしまいました。カバー曲はフェリーのソロだけのお約束でしたが、本作品には2曲含まれました。あまつさえ、タイトル曲にはマンザネラもマッケイも参加しておらず、決して上手ともいえないギターもフェリーが弾いています。

 前期ロキシーとはサウンドがずいぶん違うということも関係しています。このアルバムからは1980年代のサウンドといえばこの人、ボブ・クリアマウンテンがミックスを担当しています。とりわけドラムのサウンドはかなりクリアマウンテン印がつけられています。

 どんな音かと言えば、クリアでマウンテンな音です。けして冗談ではなく、名前の通りの音だなあと本気で思ったんです。透明感が高く、それでいてどっしりした音です。ドラマーが交代したことよりも、ミックスの違いの方が作品への影響は大きかったのでしょう。

 このアルバムあたりでロキシー・ミュージックに出会っていたとしたら、また違った方面からロキシーの魅力にどっぷりつかることができたかもしれません。名作だなと思いつつも、どうしても初期ロキシーの灰汁のようなものが懐かしくなってしまう悩ましいアルバムです。

Flesh & Blood / Roxy Music (1980 Polydor)

*2013年3月26日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. The Midnight Hour
02. Oh Yeah
03. Same Old Scene
04. Flesh And Blood
05. My Only Love
06. Over You
07. Eight Miles High
08. Rain Rain Rain
09. No Strange Delight
10. Running Wild

Personnel:
Bryan Ferry : vocal, keyboards
Phil Manzanera : guitar
Andy Mackay : sax
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Allan Schwartzberg, Andy Newmark, Simon Phillips : drums, percussion
Alan Spenner, Neil Jason, Gary Tibbs : bass
Neil Hubbard : guitar
Paul Carrack : keyboards