デヴィッド・シルヴィアンの4年ぶりのアルバム「ブレミッシュ」は、本人の予想通り、前作までとは大きく異なる作品になりました。ゲスト・ミュージシャンはわずかに二人、それもほんの数曲に参加しているのみです。ほとんどシルヴィアンが一人で作り上げました。

 前作から本作品までの間にシルヴィアンには大きな変化が訪れています。まず、自身のレーベル、サマディサウンドを立ち上げました。彼の場合、まだメジャーからアルバムを発表するオプションはありましたけれども、完全なる自由を求めてふんぎりをつけました。

 レコード会社の意向を忖度する必要は一切なくなり、コマーシャルな観点からまったく自由になったシルヴィアンの姿がここに刻印されています。その結果はチャートインすることはなかったものの、評判はすこぶる良かったと記憶しています。自由の勝利です。

 また、前作に大きな影響を与えた家族とは別れてしまいました。このことが本作品のサウンドに大きな影響を与えていることは明らかです。その頃の感情に向き合った結果が本作品に吐露されています。自身、他人と一緒に聴くと居心地が悪いと語っているほどです。

 シルヴィアンは本作品の制作にあたって、「過去を消し去って、まったく新たな語彙を自身で見つけたいと信じられないくらい願った」と語っています。純粋な直観から始めることにした、ということで、各楽曲はまずシルヴィアンのギターの即興演奏で始まりました。

 そして、その演奏に間髪を入れず歌詞とメロディーを乗せていくスタイルです。「伴奏つきのモノローグ」です。したがって、各楽曲は直観とそれに対する反応で出来上がっていることになります。演奏はローテクな処理がなされ、ドローンとなって歌を支えています。

 そこでゲストです。8曲中3曲でフリー・インプロビゼーションの大家デレク・ベイリーがギターを弾いています。ベイリーの「バラード」に魅了されたシルヴィアンからのアプローチです。二人は電話で15分ほど話した後、ベイリーが演奏を録音してシルヴィアンに送ってきました。

 1時間ほどの演奏は、後に「ブレミッシュ・セッション」としてCD化されます。ここではベイリーの演奏にシルヴィアンが反応して曲にしたものが3曲収録されています。ベイリーは演奏にあたって♪フォー・ボーカル♪と発言しており、歌ものであることを意識しているようです。

 ベイリーの硬質なギターは明らかに他の曲から際立っています。ここにシルヴィアンがボーカルで対峙するわけで、この真剣勝負にはぞくぞくさせられます。前作の「ドブロ」も同様のアプローチでしたけれども、こちらはよりピュアな対決です。

 もう一人のゲストはオーストリアのギタリスト、クリスチャン・フェネスで、こちらは1曲だけエレクトロニクスを提供しています。偶然の出会いでしたが、最新のエレクトロニクスの要素を求めていたシルヴィアンの眼鏡にかなっての参加です。

 ジャケットのイラストは日本の画家、福井篤によるものです。極めてパーソナルな旅が記録されているアルバムのジャケットに相応しい水彩画です。心の奥底に潜む赤裸々な心情に向き合うことは実生活では危ないですが、こうして創作の場面では凄い作品を生むのですね。

Blemish / David Sylvian (2003 Samadhisound)

参照:"On The Periphery" Christopher Young



Tracks:
01. Blemish
02. The Good Son
03. The Only Daughter
04. The Heart Knows Better
05. She Is Not
06. Late Night Shopping
07. How Little We Need To Be Happy
08. A Fire In The Forest
(bonus)
09. Trauma

Personnel:
David Sylvian
***
Derek Bailey : guitar
Christian Fennesz : electronics