グラミー賞の授賞式には我が家にいるかのような顔をして座っているジェイZの姿が欠かせません。この季節になると否が応でもジェイZのことを思い出してしまいます。もはやヒップホップを聴かない人でも名前を聞いたことがあるアーティスト・ナンバー1でしょう。

 誰が史上最高のラッパーかという問いにはもちろん正解はないでしょうが、誰が最高の事業家ラッパーかという問いの答えはジェイZしかありません。これほど事業の才覚に恵まれたアーティストはヒップホップというジャンルを超えても見当たらないのではないでしょうか。

 本作品はジェイZの「グレイテスツ・ヒッツ」です。とはいえ、ジェイZのキャリアを網羅しているわけではありませんし、そもそも米国では発売もされていない作品です。国外向けのサンプラー的な作品ですから、ウィキペディア英語版にも記載されていません。

 ジェイZは1996年に早くも自主レーベルを設立して、デビュー・アルバム「リーゾナブル・ダウト」を発表しています。そして大きな成功を収めましたが、2003年末にMCとしては引退してしまいます。しかし、わずか2年強で2006年には復帰したのでした。

 本作品はその2006年、復活の年に発表されており、収録された曲はすべてデビュー作、二枚目の「イン・マイ・ライフタイムVol.1」、三枚目の「Vol.2 ハード・ノック・ライフ」から選ばれています。初期3作をダイジェストした作品であることが分かります。

 「ウィッシング・オン・ア・スター」と「マネー・キャッシュ・ホーズ」のリミックスが収録されていますけれども、このアルバムでしか聴けない曲はないようです。まるでイエスの「イエスタデイズ」のような作品で、米国内では需要がないと判断されたのではないでしょうか。

 そもそも該当する3枚のアルバムは大ヒットしています。いずれもプラチナ・ディスクですし、2枚目は全米3位です。3枚目に至っては1位ですし、売上枚数だけで言えばジェイZのアルバムの中でも最大のヒットです。コンピを編む必要があったかどうか。

 とはいえ、アルバムには初期のジェイZの代表曲が並んで壮観です。すでにフィーチャー・アーティストもノトリアスBIGからメアリー・J・ブライジ、パフ・ダディにジャーメイン・デュプリなど今やヒップホップ界の伝説となっている人々が並んでいます。

 ジェイZは今日のヒップホップの隆盛をもたらした人の一人ですから、その影響力はとても大きいのでしょう。若い頃の作品とはいえ、実に堂々たるサウンドを展開しています。全くの正統派、ラップとは、ヒップホップとはと問われて真っ先に思い浮かぶサウンドです。

 その意味では教科書に近いのかもしれません。残念ながらリリックを理解できないので、ジェイZの魅力の半分くらいしか分からないのではと恐れながらも、どちらの方向にも行き過ぎていないちょうどよいサウンドを聴いているのは楽しいことです。

 曲の中ではやはり亡くなってしまったノトリアスBIGとの「ブルックリンズ・ファイネスト」が耳を惹きます。拳銃の音が響く曲での二人の共演は涙ものです。事業家あるいはビヨンセの夫という顔が前面に出てくる前のひたむきなジェイZの姿がまぶしいです。

Greatest Hits / Jay-Z (2006 Sony BMG)



Tracks:
01. Can I Get A......
02. Hard Knock Liffe
03. Wishing On A Star
04. Can't Knock The Hustle
05. Ain't No Nigga
06. Ride Or Die
07. Brooklyns Finest
08. Imaginary Player
09. Friend Or Foe
10. Friend Or Foe 98
11. More Money, More Cash, Moe Hoes
12. The City Is Mine
13. Resevoir Dogs
14. I Know What Girls Like
15. 22 Twos
16. Money Ain't A Thang
17. Dead Presidents II
18. Regrets

Personnel:
Jay-Z
***
Mary J Blige
Foxy Brown
Notorious B.I.G
Blackstreet
Puff Daddy
Lil'Kim
Jermaine Dupri