デヴィッド・シルヴィアンの12年ぶりのソロ・アルバム、「デッド・ビーズ・オン・ア・ケーキ」が好評だったからか、その半年後に本作品「アプローチング・サイレンス」が発表されました。シルヴィアンがインスタレーションのために制作した楽曲のコンピレーションです。

 本作品には時期の違う二つのインスタレーションに関わる音楽が収録されています。まず最初の2曲は1990年9月29日から10月12日まで、品川にある倉庫で行われた「エンバー・グランス:パーマネンス・オブ・メモリー」のための音楽です。

 訳してみれば「燃えさしのきらめき:記憶の永遠」でしょうか。東京クリエイティブ90の招待で行われた一連のイベントの一つで、ここにシルヴィアンはラッセル・ミルズとの共同作業としてインスタレーションを展開しました。シルヴィアンはフランク・ペリーとともに音楽を担当します。

 ミルズはシルヴィアンの「遥かなる大地」のジャケットを担当したアーティストで、ナイン・インチ・ネイルズの「ダウンワード・スパイラル」」なども彼の作品です。彼によればこの企画は通常のコンテクストを外れた音や光、オブジェを用いて記憶の豊かな感覚を表現するものです。

 ペリーは1960年代から活動するパーカッショニストで、後にシルヴィアンと共演するデレク・ベイリーなどとミュージック・コーペラティヴで活動を共にするなど英国フリー・ミュージック界の重鎮です。ペリーは瞑想音楽のパイオニアとしても名高い人です。

 ここではペリーのチベットのシンギング・ボウルを始めとするパーカッションとシルヴィアンのシンセやホルガー・シューカイ譲りの短波ラジオなどのサウンドが空間を彩ります。まさにアンビエント音楽そのもので、インスタレーションが見えないのが残念です。

 30分を超える「養蜂家の弟子」と2分強の「エピファニー」の2曲が収録されており、後者はドイツの芸術家アンセルム・キーファーや、インドのグルー、クリシュナムルティ、そして詩人のシーマス・ヒーニーなどの声が編み込まれた作品です。

 もう一つのインスタレーションは、日本のP3アート&エンヴィロンメントが主催したサウンドインスタレーションです。1994年8月から10月にかけて東長寺で行われました。HPによれば、表題は「音の空間」シリーズ第五弾、「贖い-静寂の中へ」です。

 1992年からユニットとして活動してきたシルヴィアンとロバート・フリップのコラボです。「『誠実さ』に身をゆだね、それに奉仕する。このインスタレーションは、その可能性を具現化する空間を生み出す試みとして制作されました。」

 会場には「床に敷き詰められたチベットのお供え用ボウルに灯されたロウソクの火が明滅。ビデオモニターには胎児と月の映像が映し出され、アダム・ロウのオブジェと共に静謐な祈りの時空を形成しました」。またまたチベットです。このゴングが大きな役割を果たします。

 ゴングが鳴るたびにシューカイによるオーケストラ・サウンドが続くモチーフが沈黙への道を示唆します。フリッパトロニクスと共にここもまたアンビエントなサウンドが空間を彩ります。シルヴィアンのアート感覚を極限にまで研ぎ澄ませたようなサウンドが秀逸です。

Approaching Silence / David Sylvian (1999 Virgin)



Tracks:
01. The Beekeeper's Apprentice
02. Epiphany
03. Approaching Silence

Personnel:
David Sylvian
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Frank Perry
Robert Fripp