本気なのかパロディーなのか、かっこいいのか笑っていいのか、何とも判断がつきかねる高橋幸宏の佇まいです。世間一般にはかっこよさの権化のような人なのですが、本当にみんながもろ手を挙げて賛成しているのかは疑問です。

 本作品は高橋幸宏の3枚目のソロ・アルバム「ニウロマンティック」です。発表は1981年5月のことで、この2か月前に高橋自身がYMOのベスト作にあげる「BGM」が発表されています。そこで「突き詰めた世界を、自分の部分だけ引っぱりだした」作品が本作品です。

 なお、「ニウロマンティック」というタイトルは、ポスト・パンクのおしゃれ革命であるところのニュー・ロマンティックと似ていますけれども、本作品の方が先です。それにこちらは新しいnewではなくて、神経のneuです。発売時の邦題は「ロマン神経症」でした。

 サイバー・パンクの旗手ウィリアム・ギブソンは名作「ニューロマンサー」のタイトルを本作品から拝借しています。ギブソン自身がそう発言していますから間違いありません。小説の内容と本作品は関連しているとも思えませんが、面白い逸話です。

 本作品は高橋が6か月半もの長期にわたってロンドンに滞在した時期に作られました。松武秀樹のコンピューターまわりの機材を一式持ち込むという豪勢な旅行です。当時の日本がいかに元気だったかが分かるというものです。これでもまだバブル前です。

 それに英国での録音にしては英国からの参加ミュージシャンが少ないです。とはいえ、ここにはロキシー・ミュージックのアンディー・マッケイとフィル・マンザネラの二人が参加しており、そのことが当時の私には大きな感動ポイントでした。

 聴いて驚いたのは、この二人の演奏がロキシー・ミュージックのまんまだったことでした。高橋もロキシーが「僕のルーツなんで」と話しており、意識的です。ドラムに難があると言われていたロキシーです。高橋がドラマーだったらよかったかもしれませんね。

 その他にはわずかにシンセポップのバンド、ニュー・ミュージックのトニー・マンスフィールドが参加しているのみです。演奏の中心になっているのは、細野晴臣と坂本龍一のYMO二人とこれまたYMOファミリーの大村憲司と松武秀樹です。

 ここでは高橋がアナログ・シンセ、プロフィットを使い始めています。私は高橋のどすんどすんと力強く正確なリズムを太い骨のように刻んでいくドラムが好きなのですけれども、さらにここではコンピューターによるリズムを併用して面白いです。テクノ・ブームです。

 本作品はこの時代のシンセ幼年期的テクノ・サウンドが全体を支配していて、そこにロキシーの二人に代表されるアナログな演奏とこれまた定評ある高橋のロマンティックなボーカルが絡みます。それがロマンティックを絵にかいたような曲を見事に演出しています。

 とりわけ「ドリップ・ドライ・アイズ」などは過剰なまでのロマンティック加減です。かっこいい問題はサウンド面にも表れているわけで、ジャケットやインナーのおしゃれすぎる感じとあいまって、どう消化してよいやら始末に困る作品です。気になる作品であることは確かです。

Neuromantic / Yukihiro Takahashi (1981 YEN)

*2012年8月27日の記事を書き直しました。書き直したところで高橋さんの訃報に接してしまいました。ご冥福をお祈りいたします。合掌。



Tracks:
01. Glass
02. Grand Espoir 大いなる希望
03. Connection
04. New (Red) Roses 神経質な赤いバラ
05. Extra-Ordinary 非・凡
06. Drip Dry Eyes
07. Curtains
08. Charge
09. Something In The Air 予感

Personnel:
高橋幸宏 : drums, keyboards, vocal
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細野晴臣 : keyboards
坂本龍一 : keyboards
大村憲司 : guitar
松武秀樹 : programming
Tony Mansfield : keyboards, chorus
Phil Manzanera : guitar
Andy Mckay : sax, oboe