今では30歳などほんの若造ですけれども、1970年代にはそうではありませんでした。大げさにいえば中年の入口です。もはや反逆の若者ではなく、体制側に取り込まれて、若者の攻撃の対象となる年齢です。「30歳を過ぎたやつを信じるな!」です。

 そんな背景を踏まえると、マーク・ボランの発言「僕は30歳まで生きられないだろう」の意味合いが分かるでしょう。その不吉な予言通り、ボランは30歳の誕生日を2週間後に控えた1977年9月16日に自動車事故でこの世を去ってしまいました。

 この頃のボランは、パンクの人気者ザ・ダムドとともに行ったツアーが成功したり、テレビで冠番組をもったりと、パンク以降の英国音楽界で新たな成功への道を歩みつつありました。ボラン・チルドレンともいえるパンクスたちからの熱いリスペクトが大きかった。

 本作品は、伝説になってしまったマーク・ボラン=Tレックスの12枚目のアルバムにして遺作となった「地下世界のダンディ」です。発表されたのは悲劇的な死の半年前です。半年たっていたために英国チャートでは24位とそこそこの成績を記録したにとどまりました。

 作品はTレックス名義にはなっていますけれども、当初メンバーのスティーヴ・カリーも脱退しており、ベースのハービー・フラワーズ、ドラムにトニー・ニューマン、ギターのミラー・アンダーソン、キーボードのディノ・ダインズとダインズ以外はみんな新顔です。

 このうち、フラワーズやニューマンは有名なセッション・ミュージシャンです。さらに本作品はロサンゼルスからロンドンへと半年以上に及ぶ制作期間の間に、他にも多くのミュージシャンが参加しています。ほぼボランのソロ・プロジェクトといっても差し支えない様子です。

 実際にボランは前作の発表後に「次はソロ・アルバムを作りたい」と発言していますし、本作の直前には奥さんとの連名でシングルを発表したりもしています。このところ、どのアルバムも新たな出発でしたが、本作品はいよいよ本格的な次章の始動であったのでしょう。

 本作品ではソウル、ファンク色は一旦後退しており、全盛期のブギー・スタイルを中心としたシンプルなロック路線へと回帰しています。とはいえ、アコースティック色が特徴でもあった全盛期の作風ではなく、よりパンクに近いエレクトリックなブギーです。

 腕利きのセッション・ミュージシャンがわきを固めているため、リズム・セクションなどは各段に強力になりました。その分、奇妙さは減じましたけれども、パブ・ロックのようなシンプルながらごりごりの音像になっています。ボランのボーカルも迫力満点です。
 
 本作品には1年近く前に発表されたシングル「ラヴ・トゥ・ブギー」の他、「心はいつもロックン・ロール」、「地下世界のダンディ」の2曲のシングル曲を収録しています。特に「ラヴ・トゥ・ブギー」は久々にシルバー・ディスクを獲得するヒットを記録しています。

 英国国内ではかつてのTレックスの輝きを取り戻しつつあった矢先の不幸でした。まだ現役で活躍している同世代のアーティストも多い中、早すぎる死は本当に残念です。マーク・ボランは本当にスターらしいスターでした。最後のアルバムも傑作です。合掌。
 
Dandy In The Underworld / T. Rex (1977 EMI)

*2011年10月19日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Dandy In The Underworld 地下世界のダンディ
02. Crimson Moon 深紅色の月
03. Universe 宇宙の舞踏会
04. I'm A Fool For You, Girl きみに恋わずらい
05. I Love To Boogie
06. Visions Of Domino ドミノの幻影
07. Jason B. Sad 悲しきジェイソン・B・サッド
08. Groove A Little グルーヴはいかが?
09. The Soul Of My Suit 心はいつもロックン・ロール
10. Hang-Ups 恋はあまのじゃく
11. Pain And Love 苦痛と愛
12. Teen Riot Structure 十代の暴走
(bonus)
13. Celebrate Summer
14. Dandy In The Underworld (single version)

Personnel:
Marc Bolan : vocal, guitar, bass, percussion
Miller Anderson : guitar
Herbie Flowers, Scott Edwards, Steve Currie : bass
Tony Newman, Paul Humphrey, Dave Lutton : drums
Steve Harley, Alfalpha, Nick Laird-Clowes, Andy Harley, Sam Harley, Gloria Jones, Colin Jacas, Bernie Casey : chorus
Bud Beadle : sax, flute
J.B. Long : violin