とはいえバンドは前作のメンバーからフィンが抜けただけです。前作ではすでにフィンの存在が目立たなかっただけに、本作への音楽面での影響はさほどではなさそうです。何だかさみしい限りではありますけれども、これが歴史というものでしょう。
フィンの代わりに大いに目立っているのがストリングスです。本作品ではトニ・ヴィスコンティの代わりに、スティーリー・ダンとの仕事で有名なジミー・ハスケルがストリングスを担当しています。ストリングスとシンセの活躍が前作との一番の相違です。
華やかなサウンドの本作品は、チャート入りすらしなかった前作に比べ、イギリスでは５０位ながら見事にチャート入りしています。一般的には一時の低迷期を脱して、一筋の光明が差したアルバムとされています。ソウルフルにしてソリッドかつコンパクト。力作です。
ボランはフィンとたもとを分かったものの、個人的にはコカイン中毒からも立ち直り、グロリア・ジョーンズとの間に子どもが生まれて幸せの中にありました。ツアーもそこそこ成功しており、どんどん元気になってきました。ベジタリアンもやめています。
一方、本作品が発表された頃から、イギリスの音楽業界はにわかにパンクで活気づきました。ダムドを始め、オリジナル・パンクスたちがＴレックスと親和性が高かったこともあって、Ｔレックス再評価の雰囲気が醸成されておりました。
こうして内外の波が見事にシンクロしつつあったわけです。前作と比べても、どこか輝きが違う気がします。ストリングスの復活など、ボランの試行錯誤の後も含めて、とにかくボランは意欲的で元気です。フィンの脱退によるワンマン・バンド化は必要なことだったのでしょう。
アルバムのジャケットを手がけたのはジョージ・アンダーウッドです。彼はティラノザウルス・レックスのデビュー作品を描いています。初心に返ったボランです。なお、アンダーウッドはデヴィッド・ボウイの「ハンキー・ドリー」や「ジギー・スターダスト」も手がけています。
イラストはボランが原題のフューチャリスティック・ドラゴンにまたがって空を駈けているところです。アルバム・タイトルとイラストからは、コンセプト・アルバム的な空気が漂います。少なくとも日本のレコード会社はそうとらえていて、各楽曲に長々とした邦題がつけられました。
しかし、アルバムは３分前後の短い曲が詰め込まれたいつものＴレックスです。今回はフィル・スペクターに影響されたらしいリッチな音づくりがなされており、シタールの導入などによる音色の工夫やストリングス、音の壁などグラマラスなサウンドがかっこいいです。
私は「可愛い狂人」などと邦題をつけられたコール＆レスポンス風の「マイ・リトル・ベイビー」が一推しです。他にもシングルにしてもよい曲が並んでおり、とにかくコンパクトながらゴージャスです。初期のアコースティック風味はありませんが、これもかっこいいです。
Futuristic Dragon / T.Rex (1976 EMI)
*2011年10月17日の記事を書き直しました。
Tracks:
01 Futuristic Dragon (Introduction) 銀河系よりの使者
02. Jupiter Liar 美しき偽善者ーその名はジュピター
03. Chrome Sitar シタールは星空の調べ
04. All Alone クローム色の小夜曲
05. New York City ニューヨークの貴婦人
06. My Little Baby 可愛い狂人
07. Calling All Destroyer 破滅の英雄たちを今ここに
08. Theme For A Dragon 気違いドラゴンのテーマ
09. Sensation Boulevard センセイション通りのピーコック祭り
10. Ride My Wheels 素敵な君と愛のドライヴ
11. Dream Lady 夢みる夜の魔女
12. Dawn Storm 朝焼けの天使はぼくの恋人
13. Casual Agent 気ままなカサノヴァ
(bonus)
14. City Port
15. Laser Love
16. Life's An Elevator
Personnel:
Marc Bolan : vocal, guitar, moog
Steve Currie : bass
Dino Dines : keyboards
Davey Lutton : drums
Gloria Jones : clavinet, vocal
***
Jimmy Haskell : string instruments