テイチクのTレックス紙ジャケ再発シリーズは添えられた帯が傑作でした。本作品には「グラム降臨 極楽浄土の昇天ブギー」のコピーとともに錦鯉に乗ってサーフィンするマーク・ボランの毒々しい写真が使われました。ボランの妖しい魅力を伝えるにとても効果的です。

 Tレックス10枚目のアルバム「ブギーのアイドル」はアメリカで録音されました。グラム・ロック・ブームの終焉とともにすっかり過去の人にされてしまったイギリスを後にして、新しい嫁さんの故国アメリカへと向かったわけです。サウンドもすっかりソウルに寄っていきました。

 しかし、残念ながらこのアルバムは売れませんでした。Tレックスのアルバムの中では一番売れなかったとされています。狙ったアメリカ市場はもとより、イギリスでもチャート入りすることはありませんでした。前作は12位だったにもかかわらずです。

 アメリカではそもそも前作が発売されておらず、前作と本作品から編集したアルバム「ライト・オブ・ラヴ」として発表されています。何という扱いでしょう。それでもアメリカに活路を求めていたボランの心中はいかなるものだったのでしょうか。

 だからと言って本作品が駄作かというとけっしてそんなことはありません。アメリカ録音という事実も効いているのか、明るく乾いたサウンドになりました。広がりを求めるのではなく、リズムを強調してコンパクトにまとまったサウンドはボランの声にとても似合っています。

 奥さんのバック・コーラスもソウルフルですし、ベースもいつになく歌っています。曲によってはツイン・ドラムで迫力を増しています。ストリングスはほぼ姿を消しており、ファンキーなピアノやサックスが大いに活躍しています。ただ、ミッキー・フィンの影が薄いのがさみしいです。

 デビュー以来、蜜月状態だったトニ・ヴィスコンティとは完全にたもとを分かち、本作品はボラン自身がプロデュースを手掛けました。バンド・メンバーからはドラムのビル・レジェンドが去り、新たに北アイルランドのバンド、エール・アパレントのデイヴィー・ルットンが加わりました。

 また、キーボードにハンブル・パイと関連深いバンドにいたディノ・ダインズが加わり、さらに奥さんのグロリア・ジョーンズがクラヴィネットとボーカル担当でクレジットされました。なお、ゲストにはデヴィッド・ボウイやハリー・ニルソンが加わっているという噂があります。

 まさに新生Tレックスです。しかし、先行シングル「ライト・オブ・ラヴ」はファンの間ではすこぶる評判が悪かったようです。人によっては馬鹿にしたような軽い歌だととらえていたようですが、こんな可愛らしい歌を虚心坦懐に受け止められないようではいけません。

 10年以上たって再評価された「シンク・ズィンク」や「ティル・ドーン」など、意欲的なダンス・チューンもありますし、ボウイの「ヤング・アメリカン」へのボランなりの返答であったとの見方もあながち間違いではなさそうです。とにかく力作であることは間違いありません。

 こんなアルバムを作っても売れない時は売れないのだなとブームというものの残酷さを思い知ります。売れる売れないは音楽の本質には関係ありませんが、スターであることを強く意識していたボランにとっては大いなる問題だったことでしょう。恐ろしいことです。

Bolan's Zip Gun / T. Rex (1975 EMI)

*2011年10月14日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Light Of Love
02. Solid Baby
03. Precious Star
04. Token Of My Love
05. Space Boss
06. Think Zinc
07. Till Dawn
08. Girl In The Thunderbolt Suit
09. I really Love You Babe
10. Golden Belt
11. Zip Gun Boogie
(bonus)
12. Satisfaction Pony
13. London Boys 麗しのロンドン・ボーイ

Personnel:
Marc Bolan : vocal, guitar
Micky Finn : hand percussion
Steve Currie : bass
Dino Dines : keyboards
Davey Lutton : drums
Gloria Jones : clavinet, vocal
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Paul Fenton : drums