スージー・クアトロの1年ぶりのアルバム「フォー・レター・ワーズの秘密」です。原題を直訳すると「スージーとその他の四文字言葉」ということになります。彼女の名前Suziが四文字であることを逆手にとったしゃれっ気にあふれたタイトルです。

 発表は1979年9月のことです。クアトロの活動だけを追っているとうっかり見過ごしてしまいますけれども、彼女がデビューしてからここまでの間にイギリスではパンクが大きくシーンを変えたのでした。そのことにまったく動じないクアトロの活動です。

 本作品はこれまた意欲的な作品です。プロデュースは恒例のマイク・チャップマンです。ただし、曲の提供はわずかに2曲のみです。もちろんそのうちの1曲「愛のゲーム」はシングル・カットされて英国では11位、米国でも41位とヒットを記録しました。

 この曲はベース・ラインが独特で、クアトロはベースを弾きながら歌うのにずいぶん練習しなければいけなかったと語っています。確かに弾き語りは難しそうです。それでも、さすがはチャップマン、みんなで歌うにはもってこいの心躍る応援歌です。

 この頃にはクアトロとレン・タッキーのコンビが作る曲とチャップマンの作る曲はほぼ一体化していたそうです。クアトロは「ママズ・ボーイ」について自身が作曲したにもかかわらず、チャップマンが書いた曲だと思い込み、録音時に作曲に注文をつけてしまったそうです。

 こうしてチャップマンと肩を並べるにいたったクアトロ/タッキー・コンビによる楽曲が大変充実しているところが本作品の醍醐味です。そのうち、「ハリウッド」はアンドリュー・ロイド・ウェーバーが大好きな曲で、タッキーはこれを彼らのベスト・ソングにあげています。

 「ラヴ・ハーツ」もナザレスの曲ではなくクアトロのオリジナルです。ドラムをたたいていた時に気になるところを発見し、それをループにして曲をつけたそうです。バディ・ホリーのような曲だいうクアトロの言葉通りの元気な楽曲です。歌詞は楽しいわけではありませんが。

 本作品にはカバー曲は二曲のみで、一つはシングル・カットもされた「ネバー・ラヴ」、同時代のアメリカのバンド、ザ・ヒーターズの曲です。もう一曲はブロンディの「ハンギング・オン・ザ・テレフォン」でお馴染みのジャック・リーの曲「ユー・アー・マイ・ラヴァー」です。

 ここでのクアトロはハード・ロックの原点に立ち返ったようなサウンドになっており、さらにそこにチャップマン譲りのポップな面がいい感じに融合しています。カバー曲の選び方も秀逸で、オリジナル曲とまざってまるで違和感がありません。

 音楽シーンはころころと移り変わりますけれども、クアトロは振り回されず着実に自身の音楽を追及して前に進んできました。本作品の充実ぶりはそのことをこれでもかと証明しています。この当時、振り回されて目が曇っていたのは私の方だったようです。

 ジャケットにはノーマン・シーフが撮影した写真が使用されています。これまでのアイドルっぽかった写真とは一線を画す、どすのきいた写真はクアトロのお気に入りです。やはり女性ロッカーのロールモデルはこうでなければいけません。目の曇りが晴れました。

Suzi... and other Four Letter Words / Suzi Quatro (1979 RAK)



Tracks:
01. I've Never Been In Love ネバー・ラヴ
02. Mind Demons
03. She's In Love With You 愛のゲーム
04. Hollywood
05. Four Letter Words
06. Mama's Boy
07. Starlight Lady
08. You Are My Lover
09. Space Cadets
10. Love Hurts

Personnel:
Suzi Quatro : vocal, bass
Len Tuckey : guitar, chorus
Bill Hurd : keyboards, chorus
Dave Neal : drums
Jamie Crompton : guitar, chorus