スロウダイヴのセカンド・アルバム「スーヴラク」はデビュー作から1年8か月、難産の末に誕生したアルバムです。今ではスロウダイヴの最高傑作の呼び声も高く、シューゲイジングの代表作として高く評価されていますけれども、発表当時はそうでもなかったようです。

 シューゲイザーないしシューゲイジングなる言葉は今となっては音楽をよく表している、よくできたジャンル名として定着していますけれども、もともとは蔑称でした。靴ばっかり見やがってなっとらん、というUK音楽誌の記者たちの思いが込められています。

 難産の理由の一つは、シューゲイザー四天王のスロウダイヴに浴びせられた酷評です。そしてもう一つはバンドの中心となっていたレイチェル・ゴスウェルとニール・ハルステッドのカップルの破局です。さらにはレーベルからのコマーシャルなものを作れという圧力。

 スロウダイヴはブラーとともに初めての米国ツアーを行うなど、ツアーをこなすかたわら、比較的早く本作品の制作にかかります。しかし、40曲ほど録音した後、クリエーション・レーベルのアラン・マッギーにダメ出しされて、一旦没にしてしまうという惨劇が起こります。

 そこで、バンドがとった行動はブライアン・イーノにプロデュースを依頼することでした。いかにもUKの新しいバンドです。イーノは若いバンドを応援する人です。スロウダイヴのサウンドを気に入っていたイーノはプロデュースではなく共演を希望、数日間の共演が実現します。

 この結果、本作品には「シング」と「ヒア・シー・カムズ」の2曲がイーノとの共演曲として収録されました。さすがはイーノです。スロウダイヴのサウンドにベテランの手が加わって、どっしりした落ち着いた曲になりました。まるで魔法がかけられたようです。

 以降、ハルステッドの作り出す楽曲にはアンビエントの影響が色濃く出てきます。この頃のアンビエントといえばエイフェックス・ツインを始め、クラブ・ミュージック界隈でさらに発展していましたから、スロウダイヴも最先端のアンビエントにひたっています。

 しかし、イーノとの共演後もハルステッドの不安定は続き、セッションから抜けてウェールズに旅行に行ったりしています。最後にはこれが功を奏したようで、とにもかくにも本作品が完成することになりました。アーティストはいろいろと大変な思いをするものですね。

 全体が一つの曲であるかのようだったデビュー作「ジャスト・フォー・ア・デイ」とは異なり、本作品では一曲一曲がしっかりと作りこまれていて、分離がはっきりしています。初々しいデビュー作から堂々たるプロ仕様への変貌は多くの新人バンドにみられる現象です。

 もちろん時々の花ですから、デビュー作の初心の魅力を推す人もいるでしょう。しかし、本作品の花も大輪です。目を見張るアンビエント技術の向上ぶりには驚きました。意外とポップなメロディーを大事にしながら、夢のような音響で攻める。ドリームポップです。

 冒頭の「アリソン」やドラムン・ベースの影響を受けたという「スーヴラク・スペース・ステーション」、さらに「ダガー」やイーノとの2曲など、気になる曲が多いアルバムです。チャート・アクションはさほどではありませんが、時を経て評価が高まる運命にあったアルバムです。

Souvlaki / Slowdive (1993 Creation)



Tracks:
01. Alison
02. Machine Gun
03. 40 Days
04. Sing
05. Here She Comes
06. Souvlaki Space Station
07. When The Sun Hits
08. Altogether
09. Melon Yellow
10. Dagger

Personnel:
Rachel Goswell : vocal, guitar
Neil Halstead : vocal, guitar
Christian Savill : guitar
Nick Chaplin : bass
Simon Scott : drums
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Brian Eno : keyboards, treatments