本国にやや遅れてTレックスは日本でも大人気でした。1972年と73年と続けて来日した際には、公演会場となった武道館が若い女性の熱狂的な金切り声に満たされたようです。そのうちの一人が会社の先輩でいらっしゃいました。

 当時は今よりも警備が緩かったため、ステージに駆け寄った彼女は、何とマーク・ボランが客席に向かって投げたタオルを激しい争奪戦の末につかみ取ることに成功しました。今でも押入れの奥に大事にしまってあるということでした。いい話です。

 いわゆるTレクスタシーが日本でも観察された事例です。その当時の雰囲気を味わうに最適なアルバムが本作品「グレイテスト・ヒッツ」です。Tレックスにはアルバム未収録のシングル・ヒット曲がけっこうありますから、このアルバムは重宝しました。

 未収録曲の一つが大ヒットした「20センチュリー・ボーイ」です。ご存じ浦沢直樹による漫画「20世紀少年」の大人気によって日本でもリバイバルした楽曲で、今やTレックスの名前は知らなくてもこの曲は知っているという若い人も多いと思われます。

 浦沢さんは私と1日しか生まれた日が違わず、勝手に同志を感じています。超絶かっこいいリフをもつTレックスの名曲に新たな息吹を吹き込んだ功績はとても大きいです。テレビからこの曲が流れてきて、私などもTレックスへの思いを新たにしました。

 本作品には他にも「チルドレン・オブ・ザ・レボリューション」、「イージー・アクション」、「ザ・グルーヴァー」とアルバム未収録のシングル・ヒット曲が連打されます。もちろん、「テレグラム・サム」と「メタル・グルー」の大ヒットした二曲も収録されています。

 しかし、ボランが独立したレーベルを立ち上げたために、以前のレーベルに残していた、米国唯一のヒット曲「ゲット・イット・オン」や出世作「ライド・ア・ホワイト・スワン」は収録されていません。そちらは前のレーベルから勝手に発売されたベストの方に含まれています。

 しかし、そのフライ・レーベルからのベスト盤は見事に全英1位を獲得しているのですが、ボラン公認の初めてのベスト盤である本作品は何と全英32位どまりでした。大そう皮肉なことです。これはひとえに発売されたタイミングの問題です。

 Tレクスタシーは急に沸騰した分、醒めるのも本当に早かったのです。本作品が発売された1973年後半にはグラム・ロックは飽きられてしまい、Tレックスの人気も下降線をたどってしまっていました。もう少し前か後に発売していれば良かったのに残念です。

 しかし、そんな洋楽シーンとは無縁であり、Tレクスタシーに襲われたわけでもない田舎町にいた私は、ブームの消長とはかかわりなく、後生大事にこのアルバムを聴いておりました。ようやくTレックスの真価が胸に届くようになってきたわけです。

 グレイテスト・ヒットですから、威勢のいいシングル・ヒット曲を中心に集められています。しかし、こんなに賑やかな曲ばかりでも、ふと涙が出そうになる超然とした佇まいがあります。心の一番奥に触れられる感じとでもいえばいいのでしょうか。やはり唯一無二のバンドです。

Great Hits / T. Rex (1973 EMI)

*2011年10月7日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Telecram Sam
02. Jitterbug Love ジルバの恋
03. Lady
04. Metal Guru
05. Thunderwing
06. Sunken Rags
07. Solid Gold Easy Action
08. 20th Century Boy
09. Midnight
10. The Slider
11. Born To Boogie
12. Children Of The Revolution
13. Shock Rock
14. The Groover

Personnel:
Marc Bolan : vocal, guitar
Mickey Finn : hand percussion, congas, vocal
Steve Currie : bass
Bill Legend : drums