「メタル・グルー」、「テレグラム・サム」を大ヒットさせたTレックスは、「チルドレン・オブ・ザ・レボリューション」、「イージー・アクション」と立て続けにシングルを発表していずれも大ヒットさせています。「ザ・スライダー」のアルバムも大成功を収めました。

 さらにTレックスのライヴを収録した映画「ボーン・トゥ・ブギー」が公開されています。この映画はリンゴ・スターが撮ったことでも大いに話題になりました。Tレクスタシーと呼ばれたTレックスへの熱狂状態は最高潮を迎えていたわけです。

 この中で発表された8枚目のアルバムが本作品「タンクス」です。この時期、シングル・ヒットは続いており、本作品とほぼ同時に発表された、かの名曲「20センチュリー・ボーイ」も全英3位となる大ヒットを記録しています。しかし、同曲は本作品に収録されていません。

 それだけではなく、本作品からのシングル・カットは一切ありません。ティラノ時代はともかく、Tレックスになってからはシングルを中心にしているとすら思われる状況だったにもかかわらずです。アルバムを聴けばこのことが意図的だったことがよく分かります。

 本作品は前作とは大きく音の表情が変わっています。彼らのサウンドを特徴づけていたフロー&エディーのコーラスとストリングスが目立たなくなりました。代わって目立っているのはサックスであり、ゴスペル調の女性コーラスです。

 全体にふわふわした繊細なサウンドから、重めのファンキーなサウンドへと変化しています。ソウルっぽいグルーヴ感も登場しましたし、前作までのアコースティックな風味が弱まり、ロック・バンド然としたサウンドになりました。ティラノからの変化よりも大きな変化です。

 デヴィッド・ボウイの「ヤング・アメリカン」を先取りしていたと評されることもありますし、パンクの先駆けと言われることもあります。パンクかどうかは別としてパンク直前の英国の一連のポップなロック・バンドはこのサウンドの直系にあると思います。

 面白いことに「20センチュリー・ボーイ」や「ザ・グルーヴァー」などの同時期のシングルは本作品よりも以前の作品の流れにあります。そのこともあって「タンクス」への収録を見送ったのでしょう。その意味ではこの作品はボランにとっては画期となっています。

 この当時、ボランは愚連てきていました。ヒッピー時代はかたくなにドラッグに背を向けていたボランはここへきてコカインなどに手を染めていたようです。どんどん独善的になり、バンドやプロデューサーともうまくいかなくなってきていたということです。

 ティラノ時代からボランを支えてきた奥さんのジューン・チャイルドともほどなく別れることになりますし、あからさまにスターダムがボランを狂わせたというストーリーにはまってきました。本当のところはどうなのか分かりませんが、型どおりすぎてすとんと落ちてきます。

 ともあれ、本作品は英国では4位とヒットを続けました。しかし、ブラック・ミュージックに寄っていったサウンドであるにもかかわらず米国では100位にも入りませんでした。良い曲もたくさんある意欲作ですけれども、天上から地上に降りてきたようで私はちょっと寂しかったです。

Tanx / T. Rex (1973 EMI)

*2011年10月4日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Tenement Lady
02. Rapids
03. Mister Mister
04. Broken Hearted Blues
05. Shock Rock
06. Country Honey
07. Electric Slim & The Factory Hen
08. Mad Donna
09. Born To Boogie
10. Life Is Strange
11. The Street & Babe Shadow
12. Highway Knees
13. Left Hand Luke
(bonus)
14. Cadillac
15. Free Angel

Personnel:
Marc Bolan : vocal, guitar
Mickey Finn : hand percussion, congas, vocal
Steve Currie : bass
Bill Legend : drums
***
Howard Kaylan, Marc Volman : chorus
Toni Visconti : mellotron, strings, chorus
Howard Casey : sax