マイク・チャップマンが戻ってきました。スージー・クアトロの5作目のスタジオ・アルバム「スージーからの伝言」では、ロサンゼルスに引きこもっていたチャップマンがプロデューサーとして復帰しました。やはりとてもしっくりきます。クアトロとの相性は抜群です。

 クアトロは革ジャンに身を包んだロック・スター役で女優としてテレビ番組に出演するためにロサンゼルスに滞在していました。当地に隠遁していたチャップマンは誰の電話にも応えなかったようですが、クアトロからの電話には応答しました。

 ランチを共にし、撮影現場に招待されたチャップマンはクアトロの演技がとても自然なことに感動して、再びアルバムをプロデュースすることを決めます。その夜、「サタデイ・ナイト・フィーバー」を見たチャップマンが書きだした曲が「涙のヤング・ラヴ」でした。

 アルバムからのファースト・シングルとなったカントリー・タッチのこの曲は英国で4位、アメリカでも45位となる大ヒットを記録しました。初期のハイトーン一辺倒のシングル曲とは異なり、ちょっとハスキーなクアトロの魅力的な声が堪能できる名曲です。

 もう一曲欠かせない曲に「メロウなふたり」があります。この曲はチャップマンと組んで成功していた英国のロック・バンド、スモーキーのクリス・ノーマンとのデュエット曲です。驚くべきことにこの曲は米国で4位に入る大ヒットを記録しました。米国でもついにブレイクしました。

 この曲はドイツのケルンで録音されています。音楽賞の授賞式のためにケルンに滞在していた時に、式後に行われたVIP向けのパーティーでジャム・セッションが行われ、ボニー・タイラーらと並んでクアトロも歌いました。それに触発されたチャップマンが急いで書きました。

 英国盤LPには当初入っておらず、アメリカ盤のみの収録でしたけれども、後にめでたく収録されることになりましたから注意が必要です。こちらもややカントリー・タッチの渋い曲で、ふたりのボーカルが素晴らしいです。米国ではクアトロといえばこの曲です。

 アルバムはもちろんこの2曲にとどまるわけではありません。クアトロの内面を吐露した「スーサイド」に「ノン・シチズン」、「ワイザー・ザン・ユー」の三曲のオリジナルはいずれも落ち着いた名曲です。とりわけ「スーサイド」の熱唱は凄いです。

 カバーではキンクスの「ウェイティング・フォー・ユー」、トム・ペティの「ブレイクダウン」、リック・デリンジャーの「ロックン・ロール・フーチークー」など有名曲が並びます。スティーヴィー・ライトの「エヴィー」はオーストラリア向けのサービスでしょうか。

 チニチャンプの曲は上記2曲の他に2曲あり、いずれもシングル・カットされています。どちらもクアトロ向きの安定したキャッチーな曲です。こうしてみると捨て曲がありません。シンプルな70年代ロックながら初期のハード・ロック路線とは異なるクアトロの魅力が全開です。

 初期のころからバラードに定評があった人だけに、キャリアを重ねてますます磨きがかかったクアトロのボーカルはとにかく素晴らしいです。アルバムは米国で唯一のトップ40ヒットになっています。初期のクアトロしか知らない人にはぜひ聴いてほしいアルバムです。

If You Knew Suzi... / Suzi Quatro (1978 RAK)



Tracks:
01. Don't Change My Luck
02. Tired Of Waiting
03. Suicide
04. Evie
05. The Race Is On
06. If You Can't Give Me Love 涙のヤング・ラヴ
07. Breakdown
08. Non-Citizen
09. Rock And Roll Hoochie Koo
10. Wiser Than You
11. Stumblin' In メロウなふたり
(bonus)
12. Ddream Dream
13. A Stranger With You
14. Sweet Little Rock And Roller
15. Born To Run
16. Sweet Nothings

Personnel:
Suzi Quatro : vocal, bass, congas
Len Tuckey : guitar, chorus
Mike Deacon : piano, keyboards, synthesizer, chorus
Dave Neal : drums, percussion, chorus
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Chris Norman : vocal