デヴィッド・シルヴィアンとロバート・フリップのコラボレーションは、ツアーに始まり、スタジオ・アルバムの制作を経て、再びツアーでしめくくられました。この作品「ダメージ」は後の方のツアー「ロード・トゥ・グレイスランド・ツアー」を録音したライヴ・アルバムです。

 収録されているのは、35公演にも及ぶワールド・ツアーのフィナーレとなる1993年12月のロンドン、ロイヤル・アルバート・ホールの公演の模様です。4日と5日の二日間行われたショーで、本作品への収録は一曲を除いて5日の音源だそうです。

 本作品は1994年9月にまずフリップとエンジニアのデヴィッド・ボットリルの二人によってプロデュースされた限定盤として英国のみで発売されました。ややこしいことに2001年9月にシルヴィアンのプロデュースで再発されており、その際には内容も変更されています。

 そもそも二人のコラボはシルヴィアン側から見るかフリップ側から見るかで聴こえ方も変ってしまいます。本作品は二人が別々にプロデュースしているわけですから、見方の問題のみならず、実際にサウンドが変わっています。収録曲まで違います。

 私の手元のバージョンはシルヴィアン・プロデュースの再発盤です。私はどうしてもシルヴィアン側から見てしまいますので、これで正解です。ずいぶんとクリムゾン寄りだと思うものの、比較的平静に聴いていられます。そもそもシルヴィアンのソロ作からの収録もあります。

 バンド編成はシルヴィアンとフリップに加えて、スタジオ作でも活躍していたトレイ・ガン、シルヴィアンのソロでお馴染みのマイケル・ブルック、そしてドラムにはうまくいかなかったジェリー・マロッタの代わりにパット・マステロットの三人、つごう5人組です。

 フリップ、ガン、マステロットは後にキング・クリムゾンになっていきますから、よほど意気投合したのでしょう。一方、フリップによるシルヴィアンのクリムゾンへのリクルートは失敗しました。このユニットは面白いですけれども、いかにも長続きはしなさそうです。

 収録曲の中心は「ザ・ファースト・デイ」からの曲です。加えてシルヴィアンのソロから4曲、コラボでありながらスタジオ作に収録されなかった「ダメージ」、「ザ・ファースト・デイ」、「ブラインディング・ライト・オブ・ヘヴン」の3曲がライヴ演奏で収録されました。

 この3曲は二人のコラボの初期にできた素敵なバラード曲で、カタルシス・アルバムであるスタジオ作にはふさわしくないとして収録が見送られました。ここで初めて陽の目をみたこれらの曲はなかなかの力作です。フリッパトロニクスのフリップもとてもいいです。

 むしろ、こうしたバラード曲の方が二人のコラボがしっくりしているような気がします。スタジオとは違う緻密さをたたえた素晴らしいサウンドもこうした曲の方が一段と映えるように思います。ロック色が強いとあまりにクリムゾンです。シルヴィアンが客演しているような感じです。

 このコラボの結果、シルヴィアンはツアーする喜びに目覚め、上々の気分で終えることができたようです。おまけに彼はこの時期に子どもを授かっています。一方、フリップは直前に母親を亡くしています。二人にとって方向は違うものの、大きな意味があったツアーでした。

Damage / David Sylvian/Robert Fripp (1994 Virgin)

*2015年10月19日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. God's Monkey
02. Brightness Falls
03. Every Color You Are
04. Jean The Birdman
05. Firepower
06. Damage
07. Gone To Earth
08. 20th Century Dreaming (A Shaman's Song)
09. Wave
10. Riverman
11. Blinding Light Of Heaven
12. The First Day

Personnel:
David Sylvian : guitar, keyboard, vocal
Robert Fripp : guitar, Frippertronics
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Trey Gunn : Chapman Stick, vocal
Michael Brook : Infinite guitar
Pat Mastelotto : drums