マーク・ボランの「ヒット曲を書くコツをつかんだ」という発言は噓ではありませんでした。音楽の神が降りてきてから初めてのアルバムとなる「電気の武者」は言葉通り、大ヒットを記録しました。何週間も1位を獲得し、1971年英国で一番売れたアルバムになりました。

 ボランはデヴィッド・ボウイとともに、化粧をしたグラマラスな容姿の男たちが演奏するロック、すなわちグラム・ロック・ムーヴメントを牽引するスターとして一世を風靡しました。この頃、Tレックスは第二のビートルズといわれ、リンゴ・スターもそれを認めていました。

 一方、アメリカでもアルバム収録のシングル曲「ゲット・イット・オン」が初めてトップ10入りする大ヒットを記録しました。ただし、チェイス**の曲と曲名がかぶるとの指摘をうけて、曲名が「バング・ア・ゴング」に変更されていますから注意が必要です。

 しかし、米国でのシングル・ヒットは「ゲット・イット・オン」のみで、アルバムも本作品と次作「ザ・スライダー」はトップ40入りしたものの、派手なヒットにはなりませんでした。そのため、アメリカでは一発屋扱いされることもありました。大西洋両岸での人気の差が大きい人です。

 分からず屋の米国はほおっておくことにします。このアルバムは大傑作です。Tレックスとともに成長してきたプロデューサーのトニー・ヴィスコンティにも神が降りて来たのか、ここでは電化初期の頃とはまるで違うサウンド・プロダクションをみせています。

 手元の30周年記念盤にはヴィスコンティがライナーを寄せていて、そこには大変楽し気な録音風景が書かれています。シングル曲にストリングスを入れているのはゲン担ぎであるとか、ドラムも一緒に同じ部屋で演奏しているため、他の楽器のパートに音が漏れているとか。

 Tレックスはこのアルバムからベースのスティーヴ・カリー、ドラムのビル・レジェンドを加えて四人組になりましたが、このアルバムのカバーにはまだボランとミッキー・フィンの二人だけが大きな活字で印刷されており、若干微妙な扱いではあります。

 この四人にストリングスとフロー&エディのコーラスが加わってゴージャスなサウンドが展開します。元キング・クリムゾンのイアン・マクドナルドもサックスで参加していますし、クレジットはありませんが、「ゲット・イット・オン」には元イエスのリック・ウェイクマンも参加しています。

 本作品ではティラノ時代とはかなり趣の異なるブギーでエレクトリックなロックが展開されていますけれども、ティラノ時代につちかったアコースティックな感触は失われていません。そこがTレックス・サウンドの最大の魅力です。ボランのちりめん声だけではありません。

 また、「コズミック・ダンサー」、「モノリス」や「ライフ・イズ・ア・ガス」といった楽曲ではティラノ時代を彷彿させるコズミックでオーガニックなサウンドが聴かれます。音の表情は変っていても、全体を覆う薄荷のごとき繊細なきらきらした感覚は保たれています。

 文句なく楽しいアルバムということもできますし、存在一般につきまとう根源的なはかなさのようなものを感じるアルバムということもできます。Tレックスの存在は唯一無二のものであることを証明したロック史に残る大傑作であることは間違いありません。

Electric Warrior / T. Rex (1971 Fly)

*2011年9月30日の記事を書き直しました。
**「シック」と記載しておりましたが、「チェイス」の誤りでしたので訂正します。真野由加☆マノンさん、ご指摘ありがとうございました。



Tracks:
01. Mambo Sun
02. Cosmic Dancer
03. Jeepster
04. Monolith
05. Lean Woman Blues
06. Get It On
07. Planet Queen
08. Girl
09. The Motivator
10. Life's A Gas
11. Rip Off
(bonus) : Work in progress version
12. Rip Off
13. Mambo Sun
14. Cosmic Dancer
15. Monolith
16. Get It On
17. Planet Queen
18. The Motivator
19. Life's A Gas

Personnel:
Marc Bolan : vocal, guitar
Micky Finn : percussion, vocal
Steve Currie : bass
Will Legend : drums
***
Ian McDonald : sax
Burt Collins : Flugel horn
Howard Kaylan & Mark Volman : chorus