ユーリズミックスにこんなアルバムがあったことを知っている人はあまりいないのではないでしょうか。「スウィート・ドリームズ」で大ブレイクし、以降、英国ロック界に君臨することになるユーリズミックスのあまり成功しなかったデビュー作が「イン・ザ・ガーデン」です。

 ユーリズミックスはアニー・レノックスとデイヴ・スチュワートのデュオです。二人はユーリズミックスを結成する前はトゥーリスツというバンドを組んでいました。バンドは1979年に結成され、3枚のアルバムを発表、いずれもそこそこのヒットを記録しています。

 ポップ寄りのニュー・ウェイブ・バンドということで、日本でも輸入盤が安く売られていました。バンドが解散すると、レノックスとスチュワートの二人はユーリズミックスを結成します。恋人同士だった二人はデュオ結成時に別れたのだそうです。恋よりも音楽です。青春です。

 デュオが最初に発表したのが本作品です。トゥーリスツ時代には、ベイ・シティ・ローラーズでお馴染みの「二人だけのデート」をカバーしてヒットさせていた二人ですけれども、この作品では英国ニュー・ウェイブのバンドの典型ともいえる試みをしています。

 そうです。英国ニュー・ウェイブに大きな影響を与えたクラウトロックの本拠地に乗り込み、マエストロ、コニー・プランクのプロデュースでアルバムを制作したのです。しかも、カンのホルガー・シューカイ、ヤキ・リーベツァイトが演奏で参加しています。

 さらに現代音楽家カールハインツ・シュトックハウゼンの息子マークスやノイエ・ドイッチェ・ヴェレの代表ともいえるDAFのロベルト・ゲールの名前も見られます。この時代、ウルトラヴォックスを始め、多くのバンドがプランクの門を叩いたものでした。

 出来上がったサウンドはやはりウルトラヴォックス的な典型的なニュー・ウェイブ・サウンドです。音の広がり方などはプランクそのものですし、メトロノーム・ドラムとも称されるリーベツァイトのビートなどもとても気持ちの良いものです。私にはぴったりのサウンドです。

 しかし、後に思い知ることとなるレノックスのソウルフルなボーカルはここではウィスパーが目立つニュー・ウェイブ仕様になっています。スチュワートのポップなセンスもここでは重いビートに絡めとられているように見受けられます。あくまで後知恵ですが。

 同じような軌跡をたどった同時代の英国のバンドにヒューマン・リーグがあります。辛気臭いサウンドからポップに生まれ変わって大ヒットを連発することになるお仲間です。ニュー・ウェイブから第二次ブリティッシュ・インヴェイジョンへの移り変わりを代表するバンドです。

 とはいえ、それはポップ・サイドから見た時の話です。控えめとはいえ、本作品でのレノックスのボーカルはやはり味わい深いです。ドイツの森の中で響いているサウンドなりに、スチュワートの曲作りも後の大ヒットの片鱗が表れているように思います。

 ポップなトゥーリスツからスーパースター、ユーリズミックスへと変身する過程になくてはならない通過儀礼のようなアルバムです。けっして失敗作などではありません。サウンド自体は私の好きなサウンドですし、あの当時の英国でヒットしなかったのが不思議なくらいです。

In The Garden / Eurythmics (1981 RCA)



Tracks:
01. English Summer
02. Belinda
03. Take Me To Your Heart
04. She's Invisible Now
05. Your Time Will Come
06. Caveman Head
07. Never Gonna Cry Again
08. All The Young (People Of Today)
09. Sing-Sing
10. Revenge

Personnel:
Annie Lennox : keyboards, synthesizer, flute, percussion, vocal
David A. Stewart : keyboards, synthesizer, bass, guitar, chorus
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Clem Burke : drums
Holger Czukay : French horn, brass, Thai stringed instrument, walking
Crista Fast : chorus
Rober Görl : drums
Jaki Liebezeit : drums, brass
Roger Pomphrey : guitar, chorus
Markus Stockhausen : brass
Tim Wheater : sax