「レイン・トゥリー・クロウ」は解散したジャパンのメンバー四人が8年ぶりに集まって制作したアルバムです。日本盤の帯には「伝説復活」と記載されており、誰しもがジャパンが復活したのだと思ったものです。しかし、アーティスト名はレイン・トゥリー・クロウ、複雑です。

 リユニオンは、ホルガー・シューカイとのコラボレーションで集団による即興演奏に可能性を見いだしたデヴィッド・シルヴィアンの呼びかけで実現しました。ジャパンの解散はシルヴィアンが一方的に宣言したものでしたから、それぞれに思いがあったことでしょう。

 しかし、そこは昔からの仲間です。80年代後半にはわだかまりも溶け始めており、デヴィッドがカーンのソロに参加したりするようになっていました。心身ともにどん底にあったデヴィッドが次に選んだのが昔の仲間とのコラボレーションだったことは驚くことではありません。

 ところが、四人の間でプロジェクトがスタートするにあたって、デヴィッドが皆に手紙を書き、ジャパン時代のサウンドとの決別と新しいプロジェクトに入るに当たっての心構えを説いてきかせたそうで、これには特にカーンが反発するなど、暗雲が漂います。

 こうして、いきなり大きな不安を抱えてのスタートとなりましたがが、何とか4人はスタジオ入りし、録音は順調に進んでいきます。しかし、予めヴァージン・レコードが用意した結構な額の制作費用はミックス・ダウンの作業を前に底をついてしまいます。

 ヴァージンは追加費用を出す条件にジャパンの名前を使うことを求めますが、シルヴィアンはこれを拒否。自分でお金を工面して、アルバムを完成させました。この過程で、他のメンバーの関与が制限されてしまったことで、この四人はまた確執状態に逆戻りしてしまいます。

 こうした顛末を抱えたアルバムですから、さすがにジャパンの再結成アルバムと言うのは憚られます。シルヴィアン以外のメンバーも出来上がりにはかなり不満があるようです。とはいえ、出来が悪いかというと、これがまたとても良いアルバムです。

 基本はグループによるインプロヴィゼイションです。シルヴィアンがシューカイとのコラボから学んだ手法です。喧嘩をしつつも息の合った四人による即興演奏は素晴らしい限りです。スタジオで何時間もさまざまな楽器を使って演奏したそうで、それ自体は楽しかったことでしょう。

 収録された各楽曲はその即興演奏を編集したものから出来上がっており、その最終課程にシルヴィアンの意思が色濃く反映されています。したがって、彼のソロ作品の流れの中においてみるととてもしっくりくることになっています。ジャパンの延長ではありません。

 何と言っても定評あるスティーヴ・ジャンセンのドラムが凄いです。いい弟をもったものです。カーンのベースがあまり目立たないのが寂しいですが、彼はむしろ吹奏楽器で活躍しています。リチャード・バルビエリの不思議なキーボードも健在です。

 そんな各メンバーの個性あふれる演奏を上手く使ってシルヴィアンがソロ作品を作り上げたと言えるのでしょう。ポップを排して、シリアスなアート・ミュージックを指向した作品は藤原新也のジャケ写のような荒涼とした風景を映しています。テーマは「死」でした。

Rain Tree Crow / Rain Tree Crow (1991 Virgin)

*2015年9月22日の記事を書き直しました。

参照:"On The Periphery" Christopher Young



Tracks:
01. Big Wheels In Shanty Town
02. Every Colour You Are
03. Rain Tree Crow
04. Red Earth (as summertime ends)
05. Pocket Full Of Change
06. Boat's For Burning
07. New Moon At Red Deer Wallow
08. Blackwater
09. A Reassuringly Dull Sunday
10. Blackcrow Hits Shoe Shine City
11. Scratchings On The Bible Bels
12. Cries And Whispers
13. I Dring To Forget

Personnel:
Steve Jansen : drums, percussion, organ
Mick Karn : bass, brass, sax, pipe, tabla, bass clarinet, wine glass
Richard Barbieri : synthesizer, piano, water wheel
David Sylvian : organ, guitar, shortwave radio, piano, vocal, percussion,harmonium
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Djene Doumbouya, Djanka Diabate : vocal
Bill Nelson : additional guitar
The Phantom Horns
Phil Palmer : guitar
Michael Brook : conga, percussion, treatment, guitar
Brian Gascoigne : orchestration