スージー・クアトロの4作目のアルバムです。原題は「アグロ・フォビア」、喧嘩恐怖症とでも訳すのでしょうか。邦題はあくまでかわいらしく「クアトロ白書」です。バンバンの「いちご白書をもう一度」でいちご白書リバイバルが起こった少し後のことです。

 本作品は前作から1年9か月も間が空いてしまいました。この間にメンバー交代がありました。かっこいい演奏をしていたキーボードのアリステア・マッケンジーがロック・スターの破滅的な生き方に染まってしまったため、解雇されることになりました。

 マッケンジーの代わりにはマイク・ディーコンが加入しましたけれども、クアトロによれば、この交代によってクアトロ・サウンドには何の変化もないということです。自信に満ちたクアトロの姿がまぶしいです。自分が育てて才能を開花させているんだと。

 しかし、クアトロの大ヒットの音楽面での仕掛け人マイク・チャップマンがニッチー・チンとのチニチャンプ・コンビを解消したために、本作品ではプロデュースを担当できず、音楽面でない方の仕掛け人ミッキー・モストがプロデュースを担当しました。これは大きいです。

 もともとチャップマンのプロデュースでセッションが開始されていましたが、結局、モストのもとでほとんど録り直されています。クアトロとギターのレン・タッキーのコンビはモストのプロダクションには必ずしも満足していません。彼女たちの「エッジ」を捉えられていないと。

 モストはエッジしかないジェフ・ベックのアルバムをプロデュースしたこともあるのですが、ここでは紙やすりをかけるようにサウンドを磨いています。アルバム中では「燃えるときめき」のみがチャップマンのプロデュースで、確かにこちらはキラキラと輝いています。

 別れる前にチニチャンプが書いていたシングル曲「恋はドッキリ」は、アルバム収録はモスト・バージョン、シングル盤はチャップマン・バージョンが使われており、さらにチャップマンにはキンキンのボーカル・バージョンがあり、こちらは日本とドイツ、デンマークでカットされました。

 いろいろと錯綜していますが、「恋はドッキリ」は英国でも27位と健闘しています。チニチャンプらしいキャッチーな楽曲で、クアトロ健在を示しました。とはいえアルバムは英米ではチャートに入っておらず、日本とオーストラリアのみのヒットです。ただし、前作には及びません。

 本作品にはカバー曲として、エルビス・プレスリーの「ハートブレイク・ホテル」、エヴァリー・ブラザーズの「起きろよスージー」、カントリー曲「ホンキー・トンク・ダウンステアーズ」にコックニー・レベルの「やさしくスマイル」の4曲が含まれています。最後は1975年のヒットです。

 これらの曲以外は「恋はドッキリ」を除き、クアトロ・タッキーのコンビによる曲です。これがなかなかどうして素敵です。私の中でアイドルとしてのクアトロのイメージが先行してしまっていましたが、モストによる渋めのプロデュースでも曲の良さが光っています。

 それにクアトロのボーカル。収録のアコギ曲「アメリカン・レイディ」もいいですが、そのデモでボートラ収録の「ミス・アメリカ」での彼女のボーカルは素晴らしいです。ボーカリストとしてのクアトロの魅力に胸が焦がれます。チャップマンに戻ってほしいところです。

Aggro-Phobia / Suzi Quatro (1977 RAK)



Tracks:
01. Heartbreak Hotel
02. Don't Break My Heart
03. Make Me Smile (Come Up And See Me) やさしくスマイル
04. What's It Like To Be Loved 燃えるときめき
05. Tear Me Apart 恋はドッキリ
06. The Honky Tonk Downstairs
07. Half As Much As Me スリルがいっぱい
08. Close The Door
09. American Lady
10. Wake Up Little Susie 起きろよスージー
(bonus)
11. Tear Me Apart (International single version)
12. Close Enough To Rock'N' Roll
13. Same As I Do
14. Roxy Roller
15. I'll Grow On You
16. Kids Of Tragedy
17. Miss America (early version of American Lady)
18. Half As Much As Me (Montreux version)
19. Tear Me Apart (single version)

Personnel:
Suzi Quatro : vocal, bass
Len Tuckey : guitar, chorus
Mike Deacon : keyboards, chorus
Dave Neal : drums, chorus