マイルス・デイヴィスのアルバム「イン・コンサート」です。タイトルからだけではいつのアルバムなのか皆目見当がつきませんけれども、ジャケットを見れば一目瞭然、「オン・ザ・コーナー」の時代であることが分かります。コーキー・マッコイのイラストが冴えています。

 プロデューサーのテオ・マテオやマッコイ、そしてエンジニアの名前はジャケットにクレジットされていますけれども、曲名や演奏者の名前は一切書かれていません。1枚目は「フットフーラー」、2枚目は「スリッカフォニックス」であろうと推測される書き方がされているのみです。

 本作品は1972年9月29日にニューヨークのフィルハーモニック・ホールにて行われたマイルスのライヴの模様を収録した2枚組アルバムです。発売は「オン・ザ・コーナー」の後ですけれども、ライヴ自体は「オン・ザ・コーナー」発表前ですから面白いです。

 この時期のマイルスの演奏は、「ビッグ・ファン」にも収録されていますが、そちらの発表は1974年まで待たなければなりません。ライブを見に行った人、レコードを発表時に買った人たちの状況を再現してみると、要するにかなり驚いたということではないでしょうか。

 バンドは、マイルスのトランペット、カルロス・ガーネットのサックス、レジー・ルーカスのギター、セドリック・ローソンのエレピとシンセ、マイケル・ヘンダーソンのベース、アル・フォスターのドラム、エムトーメのパーカッションのジャズ・コンボが中心です。

 ここにカリル・バラクリシュナの電気シタールとバダル・ロイのタブラを加えて9人編成となります。インド楽器の二人はマイルスと長く共演していますけれども、本作品に関する限り、あまり目立っていません。タブラはよく聴こえますけれども、影が薄い気がします。

 演奏されている曲はCDでリイシューされる時に記載されるようになりました。時期が時期だけに「ジャック・ジョンソンに捧ぐ」と「オン・ザ・コーナー」に出現した曲が中心になっています。また、「アイフェ」はスタジオ・セッションが「ビッグ・ファン」に収録されることになります。

 コロンビア・レコードの解説は、ガーネットとルーカスの二人が過去のメンバーに比べるとソロをとる力量が劣るために、マイルスはソロを招聘するよりも、フォスターとヘンダーソンの作り出すグルーヴに住みつくような演奏になっているなどと書いています。

 順番にソロをまわしていく従来型ジャズの世界からの意地の悪い解説です。ファンキーなエレクトリック・セットですから、そういう見方は合わないように思います。ジャズとは縁遠い若者にこそ聴いてほしいといっている意味がよく分かります。

 マイルスはこのライヴの翌月には交通事故にあって何か月も音楽活動を中断していますから、この時期のライヴ音源は大変貴重です。結構マテオによって編集されているようですが、なんにしても「オン・ザ・コーナー」がライヴで再現されているわけですし。

 とはいえ、録音ないしはミックスの質はいかがなものかと思います。特にパーカッションの音質は今一つです。全体に迫力とシャープさに欠けるのが残念でなりません。交通事故に遭わなければこの後もツアーを続ける予定だったというのに間が悪いものです。

In Concert / Miles Davis (1973 Columbia)



Tracks:
(disc one)
01. Rated X
02. Honky Tonk
03. Theme From Jack Johnson
04. Black Satin / The Theme
(disc two)
01. Ife
02. Right Off / The Theme

Personnel:
Miles Davis : trumpet
Carlos Garnett : soprano sax, tenor sax
Reggie Lucas : guitar
Khalil Balakrishna : sitar
Cedric Lawson : piano, synthesizer
Michael Henderson : bass
Al Foster : drums
Badal Roy : tabra
Mtume : percussion