私は門外漢なので全く自信はありませんが、ジャケット写真に写っているのはジャイアント・ダニオという種類の魚ではないかと思います。ブックレットには他にも熱帯魚の写真がいくつか掲載されており、子どもの頃に通った医者の待合室を思いだします。

 なぜにこのようなジャケットなのかは皆目見当がつきません。本作品はポーク・クイーンの「ストラング」というアルバムで1995年にカナダで制作されています。熱帯魚とサウンドはマッチしているわけでもなく、単に熱帯魚が好きなだけかもしれません。

 アルバム・タイトルの「ストラング」もまた不思議な言葉です。普通の辞書には載っておらず、どうやら「ストロング」の方言のようです。ついでにユニット名のポーク・クイーンも分かったような分からないような言葉です。どれもこれも少し変です。

 ポーク・クイーンはカナダ人アーティスト、ジャスティス・シャンファーバーのエイリアスです。この人をネットで検索すると、ハコミセラピーを使ったカップル・セラピストが第一にヒットします。これでは使えないなと思ったのですが、何と同じ人でした。

 シャンファーバーはもともと絵画やアッサンブラージュを得意とするアーティストですけれども1990年から1997年までの間、音楽活動にも手を染めており、カナダのバンクーバーにおけるエクスペリメンタル音楽シーンの形成に大きな役割を果たしたということです。

 音楽作品のリリースは1992年から始めており、本作品もその一環ということになります。音楽家としての活動期間は短いものの、その間に7枚のアルバムを発表していることが確認できました。その他にもシングルやEPも何枚か発表している模様です。

 本作品は、1本のギターとさまざまなデバイスを駆使してライヴで制作された作品です。オーバーダブは一切ないと書かれています。曲は全部で4曲で、最初の二曲が約10分、次が6分、最後の曲が17分の長さです。アルバムとしてはまことにちょうどいい長さです。

 スタジオで行われたライブ録音で、最初の曲「ストラング・ワン」は電子音によるドローンを背景に打楽器のようなエレキ・ギターのサウンドが延々と続く、アブストラクトなサウンドが面白い曲です。あまり抑揚のないサウンドが気持ち良いです。

 続く「ストラング・ツー」は反響音のないギターを弾いていく曲ですけれども、メロディーがあるわけでもなく、純粋な即興演奏ではないかと思います。ギターのマエストロという感じがしないところがデレク・ベイリーなどとは異なります。実験しているようなサウンドです。

 シャンファーバーは画家としての自身を「アブストラクト・コンテンポラリー」と評しており、自身が理解できない美の力に没頭することを活動の目的としています。意図せざる結果が作品の決定的な要素となる。本作品を聴けばその言葉を素直に受け止められます。

 現在の彼が生業とするマインドフルネスを使ったハコミセラピーと素直に結びつくような気もするサウンドです。ニュー・エイジ的な生き方ですし、なかなかにダークなギターのサウンドはサイケデリックも感じさせます。いろいろと考えさせられるアルバムです。

Strang / Pork Queen (1996 Scratch)



Tracks:
01. Strang One
02. Strang Two
03. Strang Three
04. Strang Four

Personnel:
Justice Schanfarber : guitar, others