世に伝説のバンドと呼ばれるバンドは数多く存在しますが、私にとってはヴェルヴェット・アンダーグラウンドが最強の伝説バンドです。何と言ってもその存在を耳にしてから、音源にたどり着くまでに10年近くかかってしまっていましたから。そりゃ伝説です。

 インターネットなど存在しない頃に輸入盤すら手に入らない田舎の学生だった私にとってはヴェルヴェッツは遠い遠い存在でした。ルー・リードは好きなのにヴェルヴェッツは聴けない。噂には凄いバンドだというのに音が全く聴けない。悶々としたものです。

 最初に聴いたのが廉価盤で再発された「1969ライヴ」、ついで都会に出てきて輸入盤で「ローデッド」となかなか核心に迫れません。ようやくバナナにたどり着いた時にはほぼ10年の月日が流れていました。今の人には想像もできない幻っぷりでしょう。うらやましいでしょ。

 そんなバンドがオリジナル・メンバーで再結成してライヴを行ったんです。再結成には否定的な私も若い頃に恋い焦がれたバンドのライヴがみられるかもしれないという事実には足がすくみました。夢のような出来事とはこのことです。前置きが長くなりました。

 ルー・リードとジョン・ケイルはアンディ・ウォーホールに捧げた「ソング・フォー・ドレラ」で久しぶりに共演すると、そのフランスでのライヴのアンコールにてモーリン・タッカーとスターリング・モリソンを加えて「ヘロイン」を演奏します。これが再結成の発端です。

 1992年に再結成を発表したヴェルヴェッツは1993年にヨーロッパ・ツアーを敢行したのでした。ただし、米国ツアーも予定されていましたが、その前にリードとケイルがぶつかり、結局、ここで再び解散しています。結果的にはほんの短いリユニオンでした。

 本作品はヨーロッパ・ツアーのうち1993年6月に行われたパリのオリンピア劇場でのライヴを収録した2枚組アルバムです。ヴェルヴェッツの4枚のスタジオ・アルバムと後に「VU」、「アナザー・ヴュー」として発表された幻のアルバムからの曲で構成されています。

 さながらヴェルヴェッツのベスト・アルバムのような選曲ですし、演奏も往年のヴェルヴェッツを彷彿させます。ケイルはこのアルバムのミックスに不満が残っているようですけれども、どうしてどうしてヴェルヴェット・アンダーグラウンドらしいいいライヴだと思います。

 実は私はロンドンのウェンブリー・アリーナで行われたライヴを見ています。伝説のバンドを目の当たりにしたのです。その立ち姿には感動を覚えました。ただし、そのサウンドはとても満足できるものではありませんでした。このライヴ盤とは大違いでした。

 とにかくリードのギターの音だけが爆音すぎて、陰影に富んだケイルのヴィオラなどの演奏がまるで聴こえない。ましだったのはタッカーやケイルが中心となる曲ばかり。アリーナのせいだと思いますが、なかなか複雑な心境で帰路についたことを覚えています。

 とはいえ、このライヴ盤は音のバランスもよくて素敵です。特にモーリン・タッカーのドラムとボーカルには改めて感動を覚えます。ヴェルヴェッツは彼女のバンドでした。現役時代のような闇に覆われたような凄味はありませんけれども、再結成を懐かしむにはいい作品です。

Live MCMXCIII / Velvet Underground (1993 Sire)



Tracks:
01. We're Gonna Have A Real Good Time Together
02. Venus In Furs
03. Guess I'm Falling In Love
04. After Hours
05. All Tomorrow's Parties
06. Some Kinda Love
07. I'll Be Your Mirror
08. Beginning To See The Light
09. The Gift
10. I Heard Her Call My Name
11. Femme Fatale
12. Hey Mr. Rain
13. Sweet Jane
14. Velvet Nursery Rhyme
15. White Light / White Heat
16. I'm Sticking With You
17. The Black Angel's Death Song
18. Rock & Roll
19. I Can't Stand It
20. I'm Waiting For The Man
21. Heroin
22. Pale Blue Eyes
23. Coyote

Personnel:
John Cale : bass, keyboards, viola, vocal
Sterling Morrison : guitar, bass, chorus
Lou Reed : guitar, vocal
Maureen Tucker : percussion, keyboards, vocal