高橋ユキヒロのセカンド・アルバム「音楽殺人」です。なお、この頃まで、高橋は高橋ユキヒロと名前をカタカナ表記にしていました。次のアルバムからは漢字の幸弘になります。海外でも有名な人ですから、カタカナも漢字も同じことだと本名を優先したと推測してみたいです。

 本作品が発表されたのは1980年6月です。この頃といえば前年発表の「ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」と続く、ワールド・ツアーの成功で、YMOの人気が絶頂をきわめていた時期です。そんな時にYMOのメンバーが発表したソロ・アルバムです。

 わずか2年前のソロ・デビュー作の頃とは世間の注目度もまるで異なる状況にありました。華やかで明るい作品は当時の雰囲気を表しているようです。当然のように本作品もそれなりにヒットし、オリコン・チャートでは最高位12位を記録しています。

 本作品は前作のシティ・ポップ路線からはがらりと雰囲気が変わり、YMOのメンバーらしいテクノ・ポップの様相が濃くなっています。それに合わせて、参加しているミュージシャンの顔ぶれもいわゆるシティ・ポップらしい人々は少なくなっています。

 同じYMOの坂本龍一は本作でも全面的に参加していますし、細野晴臣もギターとベースでしっかりと参加しています。そしてYMOに欠かせないコンピューターの松武秀樹、ギターの大村憲司が加わります。しっかりとテクノ仕様であることが分かります。

 面白いのはプラスチックスの立花ハジメ、シーナ&ロケッツからシーナ、鮎川誠、浅田孟、サンディー&ザ・サンセッツから久保田麻琴とサンディーが参加していることです。シティ・ポップというよりも、ニュー・ウェイブ系の人々といえばよいでしょうか。

 彼らの個性は見事に本作品に反映されています。高橋のたたき出すYMO的なジャストなビートの上にニュー・ウェイブ的なサウンドが展開しており、その中には久保田やサンディーの得意とする南国ビートも見え隠れしています。

 前作ではフレンチ・ポップを追及していましたが、本作品はより軽やかに高橋がこの当時好きだった音楽をポップに構築していったような親しみやすさを感じます。息抜きというと失礼ですが、YMOでの喧騒から少し離れたところで気楽につくったアルバムではないでしょうか。

 今回はカバー曲はモータウンの名曲、シュープリームスの「ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラヴ」一曲です。実に楽しそうにドラムをたたき、ボーカルをとる高橋がいます。モータウンのサウンドはこの世代のミュージシャンにとっては血肉になっていることがよく分かります。

 もう一曲、こちらはセルフ・カバーですけれども、高橋がベンチャーズに提供した「スイミング・スクールの美人教師」があります。もちろんインストゥルメンタルで、立花ハジメのギターも軽やかな楽しい曲です。ベンチャーズもまた彼らの基礎となっています。

 実に楽しい作品です。曲はほとんどが高橋の作曲で、ここにYMO同様にクリス・モズデルが英語詞をつけています。これもまた軽やかでいいです。重めの日本語よりも英語の方が高橋の渋いボーカルには似合います。高橋を殺した音楽たちがつまったアルバムです。

Murdered by the Music / Yukihiro Takahashi (1980 Seven Seas)



Tracks:
01. School Of Thought
02. Murdered By The Music
03. Kid-Nap, The Dreamer
04. I-Kasu!
05. Radioactivist
06. Number From A Calculated Conversation
07. Bijin-Kyoshi At The Swimming School
08. Blue Colour Worker
09. Stop In The Name Of Love
10. Mirrormanic
11. The Core Of Eden

Personnel:
高橋ユキヒロ : vocal, drums, percussion
***
坂本龍一 : vocal, piano, synthesizer
細野晴臣 : bass, guitar
大村憲司、鮎川誠、立花ハジメ : guitar
浅田孟 : bass
シーナ、サンディー, Carmen C. López, José M. López, 久保田麻琴, 東郷昌和 : chorus
松武秀樹 : computer