発売当時は3枚組であることが大いに話題になったウィングスのライブ・アルバムです。3枚組であるにもかかわらず全米チャートでは1位を獲得しています。これは3枚組としては初めてのことでした。さすがはポール・マッカートニーです。

 本作品は「ヴィーナス・アンド・マース」発表後に始まったウィングスのワールド・ツアーの一貫として行われた米国ツアーの模様を記録したライブ・アルバムです。同ツアーは「ウィングス・オーヴァー・アメリカ」と洒落た題名となっており、それがアルバム・タイトルになりました。

 なお、日本では「ウィングスUSAツアー」として発売されていましたが、後にアーティストの意向で「ウィングス・オーヴァー・アメリカ」に戻されました。この際、日本だけポール・マッカートニー&ウィングスになっているのにそこはクレームがなかったのでしょうかね。

 ワールド・ツアーは長期にわたるもので、米国ツアーはツアー開始の翌年1976年5月から6月にかけて行われています。何が言いたいかというと、ツアーが始まってから米国にくるまでにスタジオ作「スピード・オブ・サウンド」が発売されていることを言いたいわけです。

 3枚組の音源はツアーのベスト・テイクをまとめたもので、ほぼコンサートを丸ごと収録しているようです。ライブ音源には、特にコーラス・パートなどにスタジオで手が加えられているようですが、ライヴの雰囲気は十二分に伝わってきます。

 アルバムには全部で28曲が収録されており、そのうちビートルズの曲が5曲含まれています。カバー曲はデニー・レインが歌うサイモンとガーファンクルの「リチャード・コーリー」のみで、初披露となる楽曲は大トリに置かれた激しいロック曲「ソイリー」のみです。

 また、ムーディー・ブルースの「ゴー・ナウ」が演奏されていますが、これはデニー・レインが在籍時にボーカルをとって大ヒットした曲ですから、レインの持ち歌と言ってもよい曲です。レインはこのほかに「遥か昔のエジプト精神」と「やすらぎの時」でもリードで歌っています。

 メンバーはポールにリンダのマッカートニー夫妻、レインとジミー・マッカロク、そしてジョー・イングリッシュと、ライヴ向きだった時期のウィングスで、レインの他にもマッカロクが「メディシン・ジャー」でリード・ボーカルをとる全員ボーカルが持ち味のウィングスです。

 ここにトニー・ドーシーを始めとする米国南部のホーン部隊が加わって、実にロック・バンドらしいライブが行われています。選曲もウィングスのアルバムからの曲が大半を占めており、ビートルズ曲もちょっとしたおまけに過ぎません。ポールはウィングスに本気でした。

 演奏も実にストレートで、アコースティックなセットもありますけれども、中心はハードにドライブするロックです。ただ、特にポール以外がボーカルをとる曲でベースがやたらと目立つのが面白いです。さすがに上手いわけで、主役はやはり俺だと主張しているかのようです。

 天才ポールは普通にロック・バンドとしてライヴを行っても凄かったということが証明されているアルバムだと思います。曲作りやスタジオでのサウンド作りが凄すぎて、そちらに目を奪われがちですが、どっこいしっかりロックの人なのでした。いいライヴです。

Wings Over America / Wings (1976 Capitol)



Tracks:
(disc one)
01. Venus And Mars / Rock Show / Jet
02. Let Me Roll It
03. Spirits Of Ancient Egypt 遥か昔のエジプト精神
04. Medicine Jar
05. Maybe I'm Amazed
06. Call Me Back Again
07. Lady Madonna
08. The Long And Winding Road
09. Live And Let Die 007死ぬのは奴らだ
10. Picasso's Last Words ピカソの遺言
11. Richard Cory
12. Bluebird
13. I've Just Seen A Face 夢の人
14. Black bird
15. Yesterday
(disc two)
01. You Gave Me The Answer 幸せのアンサー
02. Magneto And Titanium Man 磁石屋とチタン男
03. Go Now
04. My Love
05. Listen To What The Man Said あの娘におせっかい
06. Let 'Em In 幸せのノック
07. Time To Hide やすらぎの時
08. Silly Love Songs 心のラヴ・ソング
09. Beware My Love 愛の証し
10. Letting Go
11. Band On The Run
12. Hi Hi Hi
13. Soily

Personnel:
Paul McCartney : vocal, bass, piano, guitar
Linda McCartney : vocal, keyboards
Denny Laine : vocal, guitar, piano, bass, gob iron
Jimmy McCulloch : vocal, guitar, bass
Joe English : drums, vocal
***
Tony Dorsey : trombone
Howie Casey : sax
Steve Howard : trumpet, flugelhorn
Thaddeus Richard : sax, clarinet, flute