高橋幸宏は高校在学中からスタジオ・ミュージシャンとして活動しており、ドラマーとして業界では名前が知られた人であったようです。そうでなければ、最初のバンドがサディスティック・ミカ・バンドであったはずがありません。つのだ☆ひろの後任です。

 その後、ミカ・バンドが解散するとサディスティックスとして活動しながらソロ活動を始め、本作品「サラヴァ!」で本格的なソロ・デビューをすることになります。この年にはイエロー・マジック・オーケストラが結成されますから、そのあわいでのソロ・アルバムです。

 本作品には坂本龍一と細野晴臣が全面的に係わっています。坂本は共同プロデューサーとされ、リズム以外のアレンジをすべて担当しています。もちろんキーボードも担当しています。一方の細野はここではベーシストとしてしっかり高橋を支えています。

 その意味ではYMOの先駆けかと思われてもおかしくありませんが、最初の曲が日本ではジプシーキングスで有名な「ボラーレ」ですから推して知るべしです。本作品はYMOとは異なるフレンチなシティ・ポップ路線が貫かれたアルバムです。「ボラーレ」はイタリアですが。

 そもそもアルバムのタイトル「サラヴァ!」は、さようならのさらばではなくて、ピエール・バルーのやたらとお洒落なレーベル「サラヴァ」からとられています。頭からフランスを念頭においた作品であることが分かります。イギリスやアメリカではなくフランス。

 カバー曲は「ボラーレ」の他に、戦後まもない時期にフランスで生まれた歌曲「セ・シ・ボン」に少女画の大家中原淳一が詞をつけた曲と、デューク・エリントンの「ムード・インディゴ」の2曲です。曲選びのセンスが何ともシティ・ポップです。お洒落です。

 それ以外の曲は4曲が高橋の自作曲で、残りは坂本と加藤和彦の作った曲となっています。参加しているミュージシャンはその加藤の他に、サディスティックスの同僚だった高中正義と今井裕、元はっぴいえんどの鈴木茂、プリズムの和田アキラなどお馴染みの人々です。

 さらに吉田美奈子に山下達郎などの名前が挙がります。海外で再評価されている日本のシティ・ポップを作り上げた人々が集って作り上げた作品なわけです。そのサウンドも、後のYMOのテクノ路線ではなく、シティ・ポップの系譜に素直に位置付けられるものです。

 シティ・ポップの「発見」は海外での無名性への驚きも一つの要素だったと思います。それが日本の親父には妙な居心地の悪さを感じさせる所以ですし、YMOで海外でもある程度知られていた高橋の作品がシティ・ポップの名作に名前があがらない理由ではないでしょうか。

 それはさておき、本作品で高橋はドラマーとして細野のベースとともにがっしりとリズムを作り出しているとともに、ボーカリストとしての自身を前面に打ち出しています。やや頼りない声がいいと思うのですが、後に彼はボーカルを録り直したバージョンを発表します。

 フレンチ趣味のお洒落なサウンドメイクが素敵な作品で、1978年時点でパンクだなんだと言っていた時期に我が道を行っていた日本のポップス界の底力を感じます。もはやいつの時代の作品かまるでわからない、モンドやラウンジなどという言葉も似合いそうな作品です。

Saravah! / Yukihiro Takahashi (1978 Seven Seas)



Tracks:
01. Volare (Nel Blu Dipinto Di Blu)
02. Saravah!
03. C'est Si Bon
04. La Rosa
05. Mood Indigo
06. Elastic Dummy
07. Sunset
08. Back Street Midnight Queen
09. Present

Personnel:
高橋幸宏 : drums, vocal
***
和田アキラ、加藤和彦、大村憲治、高中正義、鈴木茂、松木恒彦 : guitar
細野晴臣 : bass
坂本龍一 : keybaords
今井裕、浜口茂外也、斎藤ノブ、林立夫 : percussion
秋川リサ&フレンズ : handclapp
Buzz、吉田美奈子、ラジ、山下達郎 : chorus