一般的にはデヴィッド・シルヴィアンのセカンド・アルバムとして知られている作品「遥かなる大地へ」です。本作品は2枚組の大作となりました。一枚はボーカル入りの楽曲で、もう一枚はインストゥルメンタルとなっています。この二枚組には理由があります。

 シルヴィアンは前作「アルケミー」のために、ボーカル曲を制作していました。結果的にお蔵入りとなってしまったそれらの楽曲を礎として、本作品のボーカル入り楽曲を作りました。それが最初のディスクです。こちらはレコード会社も納得の一枚です。

 一方、この頃、ギターを使って作曲することに夢中になっていたシルヴィアンは、結果として30曲も40曲も楽曲ができりました。レコード会社は興味を示しませんでしたが、これらは本作品と不可分であると考えたシルヴィアンは自腹でもう一枚作ってしまったというわけです。

 そのこともあり、シルヴィアンは、この作品をギター・アルバムだと言っています。制作前にビ・バップ・デラックスの才人ビル・ネルソンと出会って意気投合し、話し込んでいるうちに、実は自分はこのアルバムをギター・アルバムにしたいと思っていたことに気づいたそうです。

 本作品では、ネルソンに加え、ギターの御大ロバート・フリップ、ペダル・スティール・ギターのBJコールも参加していますし、シルヴィアン自身もギターを弾いています。そのため、サウンド面でもギターが活躍しているとはいえます。上品なギターが随所で聴こえてきます。

 もっとも、ばりばりのギター・アルバムというわけではありません。これまでキーボードを使って曲を作っていたシルヴィアンが、本作品ではギターを弾きながら曲を作っていったという作曲手法の変化を指してのギター・アルバムです。これが大きな変化です。

 フリップの参加はアルバム中の一曲「ウェイヴ」を制作している際に、誰かに音を足してもらいたいと考えた末に思いついたということです。結果として、即興型のフリップと沈思黙考型のネルソンという性格の異なる二人のギタリストがアルバムを彩ることになりました。

 ボーカル・サイドには弟スティーヴ・ジャンセンをはじめ、多くのミュージシャンが参加しています。ファースト・アルバム同様、参加者はシルヴィアンと一対一で、提示された曲の枠組みにそって自由に演奏します。そうして最高の瞬間を待つ。大変なセッションです。

 こうしてできたボーカル・サイドは前々作をさらにアート寄りに進めた感じになっています。とはいえ、名曲「シルヴァー・ムーン」のようにポップなテイストを加味した楽曲もあり、シルヴィアンの重めのボーカルを際立たせるポップとアートのブレンド具合はあいかわらず絶妙です。

 インストゥルメンタル・サイドは意外なことにボーカル・サイドよりもジャパンを感じます。装飾をはぎとったところでジャパンが出てくるのも面白いです。アンビエントともいわれるサウンドではありますけれども、意外にこちらの方が耳に馴染んで聴きやすいです。

 薔薇十字団やヘルメス主義、グルジェフにベネットなど神秘思想に彩られた作品ですし、マックス・エルンストにヨーゼフ・ボイス、さらにはミラン・クンデラと引き続きアート方面への言及が盛んです。いくらでも深読みできますが、私には極上のサウンドだけで十分です。

Gone To Earth / David Sylvian (1986 Virgin)

*2015年7月11日の記事を書き直しました。

参照:"On The Periphery" Christopher Young



Tracks:
(disc one)
01. Taking The Veil
02. Laughter And Forgetting
03. Before The Bullfight
04. Gone To Earth
05. Wave
06. River Man
07. Silver Moon
(disc two)
01. The Healing Place
02. Answered Prayers
03. Where The Railroad Meets The Sea
04. The Wooden Cross
05. Silver Moon Over Sleeping Steeples
06. Camp Fire : Coyote Country
07. A Bird Of Prey Vanishes Into A Bright Blue Cloudless Sky
08. Home
09. Sunlight Seen Through Towering Trees
20. Upon This Earth
(disc 1 bonus)
08. River Man (remix)
09. Gone To Earth (remix)
10. Camp Fire : Coyote Country (remix)

Personnel:
David Sylvian : vcal, keyboard, guitar, radio, atomosphere
***
Steve Jansen : drums, percussion, sample bass
Ian Maidman : bass
Robert Fripp : guitar, flippertronics
Phil Palmer : guitar
John Taylor : piano
Kenny Wheeler : flugelhorn
Harry Becket : flugelhorn
Bill Nelson : guitar
Richard Barbieri : atomosphere
B.J. Cole : pedal steel guitar
Mel Collins : soprano sax