前作からわずか半年あまりで発表されたスージー・クアトロの三枚目のアルバム「ママに捧げるロック」です。原題は「あんたのママは嫌がるよ」といった意味ですから、邦題は真逆です。私のような女を連れて帰ったらママに怒られるよってことです。

 クアトロの革ジャン・ハード・ロック・イメージを念頭に置いた題名ですけれども、そんな悪女にはとてもみえないので、何とも可愛らしいことになっています。マイク・チャップマンとニッキー・チンのチニチャンプ組の作った曲で、クアトロは「冗談だ」と笑っています。

 それはともかく、シングル・カットされたアルバム・タイトルと同名の楽曲は邦題を「ママのファンキー・ロックン・ロール」とされています。そうなんです。この曲ともう一つのシングル・カット曲「ビット・オフ」を筆頭に、ここでのクアトロはファンキーなんです。

 チャップマンはアメリカでスティーヴィー・ワンダーやルーファスなどばかり聴いており、帰国してスタジオに現れた時に、何か変わったことがやりたい、ファンキーはどうか、と言い出したんだそうです。そこでファンキー上等!と作り上げたのが本作品です。

 考えてみればクアトロはモータウンの本拠地デトロイト出身ですし、「オーティス・レディングを聴いて育った」わけですし、ベースのお手本はモータウン・サウンドの屋台骨だったジェイムズ・ジェマーソンだというではありませんか。もともと内にファンキーがたぎっていたわけです。

 ファンキーを表すものとして、ホーン陣の参加が挙げられます。ゴンザレス・ホーンズなるユニットがファンキー全開のホーンを聴かせます。加えて、姉パティを含む女性コーラスがこれまたファンキーを感じさせる仕掛けです。バンドの演奏もファンキーに仕上げています。

 本作品はクアトロとレン・タッキーのコンビによる曲が6曲、チニチャンプの曲が3曲、カバーが一曲のバランスとなっています。クアトロとタッキーの曲作りも進化して懐が深くなっていますから、ストレートなハード・ロックからの変貌はちょうど良かったのではないでしょうか。

 カバー曲も何とペギー・リーで有名な「フィーバー」です。ムードたっぷりに歌うクアトロの姿は新鮮な驚きです。この前にはキーボードのアレスティア・マッケンジーも曲作りに加わった「ニュー・デイ・ウーマン」が置かれており、この並びがとても自然です。

 アリス・クーパーとのツアーで参加ミュージシャンに好まれたという「ユー・キャン・メイク・ミー・ウォント・ユー」や、オーストラリアとオランダではシングル・カットされたバラード曲「マイケル」も素敵です。アルバム全体にもめりはりがきいていてかっこいいです。

 クアトロは本作品のプロモーションのために、アリス・クーパーと全米ツアーを行っています。アリスはクアトロのことを大変高くかっているのですが、クアトロはなかなか米国でヒットするには至りませんでした。英国での人気もファンキーで陰りが見えてきます。

 それでもオーストラリアと日本ではあいかわらず大きな人気を誇っていました。ただし、バンドがベスト・トラックだと自信をもった曲「ビット・オフ」もさほどヒットにつながらないなど、クアトロの既成イメージが強すぎた弊害が表れてきたようです。かっこいい曲なのに。

Your Mamma Won't Like Me / Suzi Quatro (1975 RAK)



Tracks:
01. I Bit Off More Than I Could Chew ビット・オフ
02. Strip Me
03. Paralysed
04. Prisoner Of Your Imagination
05. Your Mamma Won't Like Me ママのファンキー・ロックン・ロール
06. Can't Trust Love
07. New Day Woman
08. Fever
09. You Can Make Me Want You
10. Michael
(bonus)
11. Peter, Peter
12. Red Hot Rosie
13. I May Be Too Young 恋するヤング・ガール
14. Don't Mess Around

Personnel:
Suzi Quatro : bass, vocal
Len Tuckey : guitar, chorus
Alastair McKenzie : keyboards, chorus
Dave Neal : drums, chorus
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Chris Mercer, Mick Eve, Steve Gregory : tenor sax
Bud Beadle : baritone sax
Ron Carthy : trumpet
Sue & Sunny, Patti Quatro : chorus