「ニュー・センス・オブ・ヒアリング」は1980年に現代音楽を中心に前衛的な作品群を世に送り出していたコジマ録音のALMレーベルから発表されました。演奏しているのは小杉武久と鈴木昭男のデュオです。ジャケットが異様にかっこいいですね。

 長らく入手困難となっていましたけれども、2022年にニューヨークのNPOであるブランク・フォームズからレコードおよびCDで再発されました。40年ぶりの快挙です。いまさら言ってもせんないことですが、これが初CD化です。ブランク・フォームズは渋い活動をしています。

 小杉武久は前衛芸術集団フルクサスへの参加やタジ・マハール旅行団の活動などで知られる音楽家です。一方の鈴木昭男は自作の楽器やオブジェでの演奏が有名なアーティストです。この二人がデュオとして共演したパフォーマンスを収録したのがこの作品です。

 発売元の資料によると、鈴木と小杉は1976年に鈴木の自作楽器の展覧会で知り合い、1978年にパリの音楽祭に鈴木が小杉を招いてパフォーマンスを行ったのが二人の演奏始めです。建築家の磯崎新と作曲家の武満徹が企画したイベントでのことです。

 そこで手ごたえを感じた二人はパリで50回近く演奏した後、ストックホルム、東京と巡回します。本作品は1979年4月2日に東京のエオリアンホールで行ったパフォーマンスを収録したものです。LPだったので2部に分かれてしまっていますが、一続きのパフォーマンスです。

 小杉はバイオリンとヴォーカル、そして発信機を担当しており、鈴木は自作の楽器の担当です。彼の代表作でもあるアナラポスを始め、グラスハーモニカ、スプリングコング、キッコキキリキ、ボイス・アナラポスの5種類がクレジットされています。

 想像もつかない楽器ですが、本作品の発表当時、よく通っていた池袋西武のアール・ヴィヴァンに展示されていたアナラポスを見たことがあります。この見かけからあんな音がでるのかと驚いたことを覚えています。味のある不思議な音がでるんですよね。

 本作品ではいずれ名のある小杉と鈴木の二人が完全なる即興演奏を繰り広げています。デュオとなると片方がもう片方に合わせてしまう傾向があると思います。しかし、ここでの小杉と鈴木は完全に一体化しているよ ALMうに聴こえます。アイコンタクトもしていなさそうです。
 
 即興演奏だと演奏者同士の「会話」という表現が使われることが多いですが、この二人は会話など必要がないくらい一体化しているんです。どしゃどしゃと音を出し合うというよりも、十分に間をとった演奏ですからなおのこと驚きです。4本の手をもつ怪物の演奏です。

 この作品に私は負い目があります。発表当時に購入して家で一人で聴いて、とても面白いと思ったのはいいのですが、聴き終わった後に実は45回転で回していたことに気が付いたんです。道理で早く終わりましたし、小杉のバイオリンが超絶速弾きに聴こえたわけです。

 以降、しばらくは自分の耳を呪いながら、お二人への謝罪も込めて繰り返し繰り返し本作品を聴いたものです。33回転で。結果的に、この傑作を繰返し聴いたおかげで即興音楽を受容する回路が体に出来上がったと思っています。多くの人に聴いてほしい作品です。

New Sense Of Hearing / Takehisa Kosugi + Akio Suzuki Duo (1980 ALM)



Tracks:
01. Part 1
02. Part 2

Personnel:
小杉武久 : violin, vocal, transmitter
鈴木昭男 : Analapos, glass harmonica, spring cong, Kikkokikiriki, voice Analapos