「錬金術」はデヴィッド・シルヴィアンのソロ・アルバム第二弾ですけれども、当初はカセット・テープのみで発売されており、さらに内容がさまざまな音源を組み合わせたものであったことから、二枚目のソロ・アルバムとみなされないことも多い作品です。

 ソロ・デビュー作となった「ブリリアント・トゥリーズ」で手ごたえをつかんだシルヴィアンは、そのスタイルをメインストリームのポップ界からアヴァンギャルドへ、エンターテインメントからアートへと徐々にシフトしていくことになります。同時に音楽以外の活動も始めていきます。

 その一つがポラロイド写真です。シルヴィアンは自身が撮ったポラロイド写真の展覧会を日本で開催します。その際に、「旅の準備」と題するテレビ・ドキュメンタリーを制作することとなり、オノ・セイゲンをエンジニアに迎えてその音楽を制作します。

 さらに、山口保幸監督とともに、東京周辺の工場群を撮影したビデオ作品を制作します。もちろん音楽はシルヴィアンが担当しており、まずは坂本龍一とともに東京で録音しています。これが「鋼鉄の大聖堂」と題する作品で、シルヴィアンはロンドンでこれを録音し直します。

 この二つはボーカルが入っていないインストゥルメンタル作品でしたから、ヴァージン・レコードはこれをリリースすることを拒否します。そこでシルヴィアンはさらに抱き合わせの曲を録音することとし、それが「シャーマンの言葉」三部作として実現します。

 結果的に、「旅の準備」は日本のテレビ局で放映され、「鋼鉄の大聖堂」はビデオとして発売、「シャーマンの言葉」はEPとしてリリースされました。さらにこの三つの音楽をまとめてカセットで発売されたのが本作品「錬金術」です。かなりややこしいです。

 さらに後に1989年にシングルで発表された「ポップ・ソング」のインストゥルメンタル曲2曲が追加され、現在の形になりました。この2曲はギャビー・アギスという人の劇場作品「キン」のために制作された音楽です。やや時代が下るのでボーナス・トラックと扱うべきですね。

 「シャーマンの言葉」は前作同様、ホルガー・シューカイとジョン・ハッセルとのコラボ作品です。ガムラン音楽に影響を受けたスティーヴ・ライヒの影を垣間見ることができる素敵な楽曲で、スティーヴ・ジャンセンとパーシー・ジョーンズによるリズム隊も素晴らしいです。

 「旅の準備」はシルヴィアン一人による作品で、人々のざわめきをサンプリングしたアンビエントな作品です。そして「鋼鉄の大聖堂」では、坂本龍一と土屋昌巳の日本組に加え、ついにロバート・フリップ御大が登場します。ここではフリッパートロニクスのフリップです。

 シューカイも交えたこの作品は、いかにも「鋼鉄の大聖堂」を思い起こさせますから、標題音楽であるともいえます。それにしてもシルヴィアンはいい弟をもちました。ここでのジャンセンのドラムは本当に素晴らしい。腕達者なミュージシャンとの実験性の高い演奏は凄いです。

 シルヴィアンはボーカル曲も制作していたらしいのですが、ここで陽の目を見ていないのが残念です。出自は違うインスト曲でも同時期に悩みながら制作したという点では共通性がありますから、まとまりがあるのは当然のこと。ここにボーカルがあればなお良かった。

Alchemy : An Index Of Possibilities / David Sylvian (1985 Virgin)

*2015年7月4日の記事を書き直しました。

参照:"On The Periphery" Christopher Young



Tracks:
01.Words With The Shaman
1). Part I Ancient Evening
2). Part 2 Incantation
3). Part 3 Awakening (Songs From The Treetops)
02. Preparations For A Journey
03. The Stigma Of Childhood (KIN)
04. A Brief Conversation Ending In Divorce
05. Steel Cathedrals

Personnel:
David Sylvian : keyboard, guitar, tape
***
Steve Jansen : drums, percussion, keyboard
Jon Hassell : trumpet
Holger Czukay : radio, dictaphone
Percy Jones : bass
John Taylor : piano
Stuart Bruce : programming
坂本龍一 : piano, strings
土屋昌巳 : guitar abstractions
Kenny Wheeler : flugelhorn
Robert Fripp : guitar, Frippertronics