スージー・クアトロの快進撃は続きます。「キャン・ザ・キャン」の大ヒットを皮切りにシングル・ヒットを続けたクアトロは、1974年に入っても「悪魔とドライヴ」を全英1位に送り込むと、続く「トゥー・ビッグ」、「ワイルド・ワン」もヒットさせました。

 本作品はクアトロのセカンド・アルバムです。邦題は「陶酔のアイドル」とされました。前作は「サイケデリック・ロックの女王」でしたけれども、日本でも大人気となったクアトロの日本での受容のされ方を考えるとアイドルが相応しいという判断でしょう。

 クアトロは本作品を発表した2か月後に初来日公演を行っています。私の記憶ではこの時にテレビ番組に出演して「悪魔とドライヴ」を歌っていたのではなかったでしょうか。洋楽アーティストにしては普通にテレビに出て全く違和感がなかったので驚きました。

 白人にしては小柄で、キュートな顔立ちのクアトロは白人コンプレックスとミソジニーに満ちた日本社会では大変に心やすい存在でした。まさにアイドル。その人気ぶりは結構なもので、本作品はオリコン・チャートでトップ10入りするヒットになっています。

 このセカンド・アルバムではヒットメイカーのマイク・チャップマンとニッキー・チンのチニチャンプ・コンビの曲が3曲、クアトロとバンドのギタリスト、レン・タッキーのコンビによる曲が3曲、残りの5曲はカバー曲という構成になっています。セカンド・アルバムらしいですね。

 英国以外ではチニチャンプによるシングル曲悪魔のドライヴ」が収録されています。この曲に代表されるようにシングル曲はすべてチニチャンプによる曲です。なお、どの曲もクアトロに合うように書き下ろされているのだということは強調しておいてもよいでしょう。

 デビュー・アルバムを成功させたクアトロはタッキーとの曲作りにも自信を深めていました。しかし、マネージャーのミッキー・モストはこれまでの成功路線から外れることを恐れてクアトロの冒険を許しません。そんな確執が本作品に影響しています。

 それを端的に示すのが、ボートラとして収録されている「エンジェル・フライト」です。10分近い意欲的な実験作で、プロデューサーのチャップマンはアルバム収録を勧めますが、モストはレーベルのお偉方と相談して、結局没にしてしまいました。面白い曲なのに。

 また、シングルのB面曲に彼女たちは大いに力を入れています。こちらも3曲がボートラ収録されています。カバー曲も面白いのですが、クアトロの曲作りのうまさが光るこれらの曲は捨てがたいです。ボートラ制度ができて助かりました。

 そんな経緯もこれあり、クアトロは本作品をあまり好きではないようです。しかし、彼女の代表曲「ザ・ワイルド・ワン」のスローなアルバム・バージョンや、クアトロ自作の絶唱バラード「キャット・サイズ」など曲は充実しています。バンドの演奏もよりタイトになってきました。

 苦悩する姿も垣間見えるハード・ロッキンな素敵なアルバムです。アイドルという言葉は似合いません。そんな風に受け止めていたのは男だけで、日本を含め世界の少女たちはクアトロのことを正しく理解した上で憧れていたのでした。まさに女性ロッカーの草分けです。

Quatro / Suzie Quatro (1974 RAK)



Tracks:
01. Wild One
02. Keep A-Knockin'
03. Too Big
04. Klondyke Kate
05. Savage Silk
06. Move It
07. Hit The Road Jack
08. Trouble
09. Cat Size
10. A Shot Of Rhythm And Blues
11. Friday
(bonus)
12. Davil Gate Drive 悪魔とドライブ
13. In The Morning
14. I Wanna Be Free
15. The Wild One (single version)
16. Shake My Sugar
17. Angel Flight
18. The Wild One (dry mix)

Personnel:
Suzi Quatro : bass, vocal
Len Tuckey : guitar, chorus
Alastair McKenzie : keyboards, chorus
Dave Neal : drums, chorus