スージー・クアトロの登場は衝撃的でした。黒のジャンプスーツに身を包んだ愛くるしい顔の女性がハード・ロックをばりばり演奏する姿はとても新鮮でした。若い女の子たちも日本の中学生男子とはまったく異なる意味で大きな衝撃を受けたようでした。

 米国生まれのクアトロは10歳になる前から家族のバンドに参加しており、ステージで育ったような人です。ミドルティーンの頃には姉たちとガールズ・バンドを結成してMC5やジェファーソン・エアプレインなどとツアーをするというとんでもない十代を過ごしています。

 二十歳になった頃には、「新しいジャニス・ジョプリン」にするというジャック・ホルツマンと「最初のスージー・クアトロ」にするというミッキー・モストからオファーを受けます。MC5対アニマルズの戦いはモストに軍配が上がり、クアトロはイギリスに渡ることになりました。

 モストに最初からイメージがあったわけではなさそうで、2年近い下積みの後、フォーク的な曲「ローリング・ストーン」でデビューしますがさっぱりでした。そこで、バンドが欲しいというクアトロの主張が入れられ、バンド・メンバーが集められます。

 ジグゾー・パズルの最後のピースはスウィートへの曲の提供でヒットメイカーとして知られていたマイク・チャップマンとニッキー・チンのコンビ、チニチャンプです。モストのジャンプ・スーツ戦略が加わり、ここにみんなのよく知るスージー・クアトロが完成しました。

 チニチャンプが彼女のために書いた「キャン・ザ・キャン」が英国で1位を記録するともう止まりません。続く「48クラッシュ」、「デイトナ・デモン」と立て続けにヒットを飛ばします。その中で発表されたデビュー・アルバムが本作品です。セルフ・タイトルの自信作です。

 オリジナルにはシングル・ヒット曲は「48クラッシュ」のみが収録されました。それ以外にチニチャンプの提供した曲はわずか1曲のみです。カバー曲がローリング・ストーンズ、エルビス・プレスリー、ジョニー・キッド&ザ・パイレーツとロックン・ロールが3曲あります。

 それ以外の曲はすべてクアトロとバンドのギタリストで後に結婚するレン・タッキーのコンビが書いています。クアトロはベースを担当しており、キーボードとドラムを加えた四人組のバンドは何のギミックも必要ないご機嫌なロックを演奏しています。心躍ります。

 クアトロは「ナンバー・ワン・シングルを背にスタジオ入りしてデビュー・アルバムを録音することができる」ことに興奮したと語っています。そして何より、「私たちは自分たちのサウンドを見つけた。そして私はとうとう自分を見つけた」んです。

 「スタイルの点でも音楽的にもついに自分は何者なのかが分かった」ことへの興奮です。この高揚感と自信がアルバムに漲っています。シンプル極まりない演奏をバックにクアトロのシャウト気味のボーカルが冴え渡ります。これは素晴らしいです。

 米国ではさっぱり売れませんでしたし、イギリスでもアルバムは大ヒットというわけではありませんが、オーストラリアやヨーロッパ大陸ではトップ10入りするなど、気合の入ったシンプルな女性ロッカーのアルバムはチャート以上にインパクトを残したのでした。日本でも大人気です。

Suzi Quatro / Suzi Quatro (1973 RAK)



Tracks:
01. 48 Crash
02. Glycerine Queen
03. Shine My Machine
04. Official Suburbian
05. Superman
06. I Wanna Be Your Man
07. Primitive Love
08. All Shook Up
09. Sticks And Stones
10. Skin Tight Skin
11. Get Back Mamma
12. Rockin' Moonbeam
13. Shakin' All Over
(bonus)
14. Rolling Stone
15. Brain Confusion (For All The Lonely People)
16. Ain't Got No Home
17. Can The Can
18. Ain't Ya Somethin' Honey
19. Little Bitch Blue
20. Daytona Demon
21. Roman Fingers
22. Free Electric Band

Personnel:
Suzi Quatro : vocal, bass
Len Tuckey : guitar, chorus
Alastair McKenzie : piano, mellotron, chorus
Dave Neal : drums, chorus
***
(for some bonus tracks)
Peter Frampton, Big Jim Sullivan : guitar
Mick Waller, Alan White, Keith Hodge : drums
John 'Rabbit' Bundick : keyboards
Errol Brown : chorus