ハード・ロックを経てパンク、そしてニュー・ウェイブへと興味を移していった青春時代を過ごした私を尻目に、ハード・ロックはヘヴィー・メタルへと成長を遂げ、確実にそのファン・ベースを拡大していっていたのでした。その動きに気が付いたのはずいぶん経った後のことです。

 ヘヴィー・メタルは時を経るにつれてさまざまなサブ・ジャンルに枝分かれしていきます。その中でひときわ世間でも有名なサブ・ジャンルといえば何といってもデス・メタルでしょう。暗黒度を強め、デス声と呼ばれる独特の唱法が際立つメタルです。

 そのデス・メタルのオリジネイターの一つがこのバンド、その名も「デス」です。ディズニー・ワールドで有名な太陽が燦燦と輝くフロリダ州オーランド出身だといいますから皮肉なものです。あの風土からデスが登場したというのが何とも素敵な話です。

 デスはボーカル兼ギターのチャック・シュルディナーを中心とするプロジェクトですが、デビュー作となる本作品の頃はまだバンド形式でした。とはいえ、リズム・ギターとしてクレジットされているジョン・ハンドは実は参加しておらず、実質はドラマーとのデュオです。

 さらにシュルディナーはベースも兼任していますから、バンドと言ってよいのか疑問なしとしません。ただし、ドラムのクリス・レイファートはこの後もさまざまなデス・メタル・バンドを渡り歩く正真正銘のオリジネイターの一人でもあります。やっぱり、バンドとしておきましょう。

 本作品はデスのデビュー・スタジオ・アルバム「スクリーム・ブラッディ・ゴア」です。発表は1987年5月、最初のデス・メタル・アルバムと言われています。デス・メタルはここから始まったわけです。その意味では実に記念すべきアルバムであるといえます。

 なお、デスとデス・メタルのオリジネイターの座を争うバンドにポゼストがありますが、名前のインパクトで負けており、「デス・メタルの父」の称号はシュルディナーに与えられることになっています。ヘヴィー・メタルはサブ・ジャンルが多いので分類を議論するのは楽しいです。

 ヘヴィー・メタルのジャケットやTシャツのデザインといえばこの人、グラフィック・アーティスト、エド・レプカの描くジャケットに包まれた本作品は実にすがすがしいです。バンド名、ジャケット、タイトル、そして楽曲名、すべてがダーク・サイドに踏み込んだメタルそのものです。

 メタルの中でも高速回転するドラムとギターによる音の壁、そして喉の奥でうなるデス・ヴォイスによるボーカル。これぞデス・メタルです。繰り返しますが実にすがすがしいです。恐ろしい曲名ですけれども、死や恐怖よりも爽快感がかってしまいます。希望に満ちています。

 リズムやメロディーよりもサウンド重視です。音の壁はドローンと言い換えることもできますし、その意味では逆アンビエントでもあります。その壁の中からメロディーが立ち現れてくる「イーヴィル・デッド」のような曲にはきゅんとしてしまいます。

 後に本作品のためのセッションからのアウトテイクを多数収録した2枚組でリイシューされるなど、後のメタル界に与えた影響の大きさが伺われます。オリジネイターとしての気概に満ちたかっこいいアルバムです。シュルディナーが早世したことはとても残念です。

Scream Bloody Gore / Death (1987 Combat)



Tracks:
01. Infernal Death
02. Zombie Ritual
03. Denial Of Life
04. Sacrificial
05. Mutilation
06. Regurgitated Guts
07. Baptized In Blood
08. Torn To Pieces
09. Evil Dead
10. Scream Bloody Gore

Personnel:
Chuck Schuldiner : vocal, guitar, bass
Chris Reifert : drums
***
John Hand : guitar
Randy Burns : percussion