「待っていたんだエリオット。君こそわれらロック・エイジの新しいヒーローだ!反抗と挫折の世代のシンボル、エリオット・マーフィーのCBS移籍第一作。」と気合を入れて紹介されているエリオット・マーフィーの四作目となる1977年のアルバム「アメリカン・ヒーロー」です。

 このキャッチコピーには時代を感じてしまいます。それに何だか同じCBSのブルース・スプリングスティーン向けのコピーを使いまわしたかのような感じです。アルバムの邦題も原題とはかなりニュアンスが異なり、スプリングスティーンに寄せているかのようです。

 ニューヨーク生まれのシンガー・ソングライター、エリオット・マーフィーは、1971年にデビューするとディランズ・チルドレンとして人気を博します。しかし、不幸なことにやがて同時期にデビューしたスプリングスティーンとキャラクターが被ってしまいました。

 マーフィーはこのことに長い間苦しめられるわけですけれども、レコード会社にしてみればむしろプロモーションしやすいのでしょう、流れに掉さすコピーがつけられてしまいました。もちろん二人の個性はずいぶん違いますが、同じカテゴリーに入るのはしょうがないことです。

 本作品は宣伝文句にある通り、CBSに移籍してから初めてのアルバムです。マーフィーのデビューはポリドール、2作目と3作目はRCAですから、わずか4年の間にメジャー・レーベルを三つも渡り歩いたことになります。大して売れていないのに破格の扱いです。

 さらに本作品はロンドンで英国のミュージシャンたちと制作しています。これまたニューヨーク、ハリウッドときてのロンドンです。ほぼアルバムごとに転々としています。やがてパリに居を定めるまでマーフィーの落ち着かないロック人生が続きます。

 マーフィーを支えるミュージシャンの顔ぶれでまず目立つのはフィル・コリンズです。ほぼ全面的にドラムを叩いています。コリンズが在籍していたブランドXからモーリス・パートも参加しており、驚かされます。ニューヨークのSSWとブランドX、何という組み合わせでしょう。

 さらに、必ず言及されるのはミック・テイラーです。一曲、「ロック・バラード」でギターを弾いているのみですけれども、テイラーらしいプレイが堪能できます。こちらは意外でもなんでもなく、ごく自然にマーフィーとの相性の良さを確認することができます。

 さらにヒットした「アナスタシア」では聖パウロ教会少年聖歌隊が参加しています。これまた英国録音ならではの趣向です。ブランドXもそうですが、こうしたミスマッチともいえる趣向が何ともいい味を出しているのが本作品の特徴でもあります。

 「真夜中の暴走」などのマーフィーらしいロックンロール・ナンバーもあれば、ねっとりしたバラード曲「ロック・バラード」、カリブ調の「アメリカ・ストーリー」まで。充実した楽曲を、粘っこい声で歌いまくるマーフィーの姿は1970年代の元気なロックを象徴しています。

 本作品は大ヒットしたとは聞きませんが、マーフィーの初期作の中でも傑作の呼び声が高い作品です。マーフィーはこの後も息長く活動しており、これまでに35枚以上のアルバムを制作し、今に至るもライブで世界を飛び回っています。凄い人です。

Just A Story From America / Elliott Murphy (1977 Columbia)



Tracks:
01. Drive All Night 真夜中の暴走
02. Summer House おもいでのサマーハウス
03. Just A Story From America アメリカ・ストーリー
04 Rock Ballad
05. Think Too Hard 考えすぎ
06. Anastasia
07. Darlin' (And She Called Me)
08. Let Go 忘れよう
09. Caught Short In The Long Run 挫折の世代

Personnel:
Elliott Murphy : vocal, guitar, organ, marimba, harmonica, tambourine, harmonium
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Phil Collins : drums
Dave Markee : bass
Peter Oxendale : piano, organ
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Mick Taylor : guitar
Chris Mercer, Steve Gregory : sax
Morris Pert : percussion
Barry DeSouza : drums
Mike Moran : keyboards
Boys Choir of St. Pauls Cathedral
Barry Rose : conductor